クレイジーに「絶対に欲しい」と言い切れるスマートフォンをつくる:バルミューダ・寺尾玄が語ったモノづくりの現在地(後編)

沿って : Ilikephone / On : 20/10/2022


2021年10月に発売したコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew(バルミューダ ザ・ブリュー)」を開発した背景や、その魅力を語り尽くしたバルミューダの創業者で社長の寺尾玄。インタヴューの後半では、新ブランド「BALMUDA Technologies」でスマートフォンを投入することになった理由や、バルミューダの未来図などについて熱く語った(前編から続く)。


人類史を追いかける

──スマートフォンの発売を控えていますが、これまでバルミューダはことさら「テクノロジー」を前面に出さない会社であったように感じています。ある意味、見えないかたちで人の暮らしに寄り添うテクノロジーを製品化してきた。そんなバルミューダが「BALMUDA Technologies」という“直球”とも言えるブランドを、なぜこのタイミングでつくったのでしょうか。

わたしはもともとミュージシャンでしたが、バルミューダは最初から技術の会社として始めているんです。もちろん、最初は非常に集積度の低いところから始めざるを得ませんでした。知識もないし金もないし、人もわたしひとりですし。技術といったって、アルミを削ってパソコンの冷却台をつくることが精いっぱいです。

それでも、当時も明らかに技術の会社でした。なので、なぜいま「テクノロジーズ」を冠したブランドかというと、実はわたしにとっては最初からそうだったんです、という答えになります。

──ある意味、原点に返ったということなのでしょうか。

いえ、原点に返るというわけではなく、ずっと技術的なことをし続けてきたと思っています。ただ、いままではさすがに「テクノロジーズ」とは付けられないと感じていました。(技術の)集積度が低いので。

でも、創業から18年が経って、集積度は少しずつ高まってきたんです。アルミ削り出しのパソコン周辺機器から始まり、LEDのデスクライトをつくりました。最初のころ、基板は本当に小さなものでしたね。それが扇風機をつくるころになると、基板が3枚とブラシレスモーターなどなど、部品点数もだんだん増えてきました。その後、それぞれの製品のプログラムの行数も、扱う電子部品も増えています。

アルミの切削や精密加工をするマシニング加工は産業革命とともに加速していったので、その時代の技術からバルミューダも始まっているわけです。そこから「そのあと何が出ましたかね、人類」といった具合に家電をつくり始め、人類史を追いかけているんです。

──そうした歴史の観点から見ると、スマートフォンは歴史がとても浅いプロダクトですよね。

そうですね。ようやくほかの電機メーカーと同じスタートラインに立ったんじゃないですか、と思っています。

──デジタルプロダクトは非常にコモディティ化が進んだので、差異化が難しくなっていることは事実です。でも、参入障壁がそこまで高くないのでスタート地点に立ちやすい、という見方もできませんか。

いや、参入障壁は高いと思っています。売れる製品の企画を生み出すことがまず非常に厳しいからです。さらに、実際に製品をつくってもらうところや、売ってもらうところのセッティング。そしてコストです。開発費はこれまでの比較にならないほどかけていますから、おいそれと出せるものではありません。

例えば、日本の大手メーカーが高性能なスマートフォンを開発したとしましょう。そのカメラの部分だけ高性能な部品に置き換えたスマートフォンを、カメラメーカーが出すようなことも可能になるわけです。でも、高性能なカメラを搭載したスマートフォンをゼロからつくれば、莫大なコストが必要になります。その「ゼロからつくる」を、われわれはしているんです。