自動車は「モノ」から「サービス」へ
自動運転のイメージ(画像:写真AC)
今後、自動車産業において訪れるであろう大きな変化に自動運転の普及がある。2020年4月には「特定条件下でシステムが運転制御を実施し、作動継続困難時等は運転者が応答する」というレベル3の自動運転を視野に入れ、自動運転システムが作動中にスマートフォンの使用やカーナビなどの操作を行うことを可能とする改正道路交通法が施行された。【写真】4Kカメラ搭載! 越谷市を走った「自動運転バス」 しかし、本格的な自動運転の普及にはさらなる法改正が必要なだけではなく、今まで法が前提としてきた考えを抜本的に改める必要が出てくる。その問題を教えてくれる本が今回紹介する小塚荘一郎『AIの時代と法』(岩波書店)だ。 自動運転に限らず、AIの発展が法にもたらす影響を論じた作品だが、ここでは主に自動運転に関わる部分を紹介したい。 そもそも、道路交通法は「運転者」がいることを前提としており、道路上の車両についての国際条約で日本も批准しているジュネーブ道路交通条約も「車両……には、それぞれ運転者がいなければならない」 と運転者の存在を明記している。自動運転の全面的な導入には、まずはこうした条約や法律の改正が必要となる。 自動運転が普及すれば自動車の利用方法そのものが変わっていく可能性も大きい。車が自分で運転するものでなくなれば、車を自分で所有しようとする人は減り、必要なときに呼び出して利用する「サービス」に近づいていくと予想される。 音楽の世界では、CDという「モノ」からサブスクリプションという「サービス」への移行が起こったが、自動車業界においてもこのような移行が起こる可能性が高いのだ。
普及で求められる不具合への適切な対応
自動運転中にスマートフォンを使うイメージ(画像:写真AC)
しかし、こうした取引が主流になることは法的な難しさもはらむことになる。 現在、契約の代表例は売買契約であり、これは目的物を引き渡すことによって完了する。ところが、配信サービスの場合、配信者は著作物の利用を認めるだけであり、何か実体を引き渡しているわけではない。そのため、配信サービスが終了すると買ったはずの本が読めなくなるという問題も起こっている。 自動車が「サービス」となった場合、そのサービスがいつ始まっていつ終わるのか? 途中で故障などでサービスが提供不能になったらどうするのか? などの問題が生まれてくると考えられる。 また、製造物責任の問題では「モノ」の場合、商品の引き渡し時点を基準時として、製造業者は欠陥のない製造物を引き渡す義務がある。しかし、自動運転の自動車の場合、車体の欠陥だけでなく、組み込まれているソフトウエアの欠陥が問題になるケースも出てくると考えられる。 日本の法律ではソフトウエアは製造物ではないが、それを組み込んだ製品は製造物になる。ただし、製造物の引き渡し時にまったくバグのないプログラムというものは想定しにくく、欠陥が見つかるたびにアップデートするのがソフトウエアの世界では主流となっている。 そこで自動運転の自動車が普及すれば、ユーザーに対しては引き渡し時の欠陥の有無よりも、むしろ不具合に対する適切でタイムリーな対応が求められることになる。そのため、自動運転の普及とともに「責任」の所在についても見直さざるを得なくなってくる。 まず自動車自体の欠陥についての責任だが、これは従来は自動車メーカーが負っていた。販売した自動車に欠陥が見つかれば自動車メーカーがリコールを行って必要な修理を行うのである。これが自動運転のソフトウエアの欠陥となると、必要なアップデートを行うのは車体をつくって販売した自動車メーカーなのか、それともソフトウエア会社なのかが問題になる。 パソコンにおいてはアップデートの責任を負うのはソフトウエア会社(ウィンドウズならマイクロソフト)ということになっているが、自動運転の自動車において、パソコンのように責任の所在をきれいに切り分けられるのかどうかはわからない。
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