テレビネットワークと広告主が1年契約の取引を交渉する「アップフロント」において、YouTubeは今年、これまでにないほどテレビ的なコンテンツに力を入れている。その狙いは、従来のテレビと競争可能であると、広告主に納得させることだ。
YouTubeはここ数年、従来型テレビの広告費の一部に食い込むようになってきた。しかし、アップフロントの広告購入サイクルで、いま以上に広告費を獲得するためには、広告主の認識を変えなければならない。YouTubeはテレビを補うものではなく、テレビと互角に戦える存在なのだと。また、ブランドにとって安全ではないコンテンツ上で配信されたり、すべてのターゲットオーディエンスに届くのが遅れることへの懸念も根強くあり、こうした問題にも対処する必要がある。
YouTubeは今後、動画の制作品質およびテレビ画面で視聴される見込みを考慮して、Google Preferred(グーグル・プレファード)プログラムに含めるチャンネルを選択する。このプログラムは、YouTubeで上位5%に入るチャンネルで構成されたカテゴリー別のパッケージを広告主に提供するものだ。加えて、テレビストリーミングサービスを独立のインベントリー(在庫)オプションとして切り離し、オリジナル作品「YouTube Originals(ユーチューブ・オリジナル)」を広告収入ベースの無料版でも初回配信していく予定だ。
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YouTubeがアップフロントのプレゼンでテレビを主軸に据えたのには、もっともな理由がある。デジタル広告出稿を行うブランドの多くは、YouTubeが獲得を目論むアップフロントでの契約が定める巨額の年間最低投資額に及び腰か、そもそも手が届かないのだと、あるエージェンシー幹部はいう。YouTubeの広報担当者は、今年の契約における年間最低投資額の具体的な数値を明かしていないが、2015年の時点では200万ドル(約2億2200万円)だった。一方、テレビ広告に出稿するブランドは多額の予算をもっている。それに、テレビ広告バイヤーは、視聴者が減少し、広告価格が上昇するなか、従来型テレビに代わる費用対効果の高い選択肢を求めるようになってきている。
とはいえ、YouTubeがテレビ広告企業からより多くの広告費を獲得するためには、従来型テレビネットワークと同等に、同じ画面上で戦えることを証明しなくてはならない。「大型スクリーンに映ることは、どこでも見られるスクリーンで再生される動画に表示されることよりも価値が高いという考えが根強い」と、前述のエージェンシー幹部はいう。
Google Preferredを大画面へ
今年のアップフロントでも、YouTubeのプレゼンの主役はGoogle Preferredだった。これはプログラムがはじまった2014年以降、一貫している。「Google Preferredは依然として我々のアップフロントオファーの中心にある」と、Googleでエージェンシー・メディアソリューション担当バイスプレジデントを務めるタラ・ウォルパート・レビー氏はいう。しかし今回、YouTubeはGoogle Preferredに少し手を加え、テレビでの視聴を強調することで、テレビ広告出稿企業へのアピールを強めた。
YouTubeは、チャンネルをGoogle Preferredに組み込むかどうかを決める際、「Pスコア」と呼ばれる指標を使っている。Pスコアを構成するいくつかの下位指標は、すべて頭文字Pから始まる。チャンネルの人気(popularity)の基準は視聴回数、オーディエンスの情熱(passion)の基準はリピート視聴回数と動画がシェアされる確率だ。昨年、YouTubeはブランドセーフティ問題への対応策として、安全性(protention)を指標に追加し、Google Preferredチャンネルがアップロードする動画はすべて、生身の人間によって審査されることになった。Pスコアには今年、さらに2指標が追加された。プラットフォーム(platform)と制作(production)のふたつであり、テレビ画面での視聴の増加と、動画の高品質化が狙いだ。
同社の発表によると、2017年10月の時点で、YouTube動画は1日に1億時間以上テレビで再生されていた。現在はすでに1日に2億時間を突破しているという。
YouTube TVとYouTubeでのテレビ的番組
YouTubeは、Google Preferredを改良し、テレビ画面にさらに広告を送り込もうとしているだけではない。テレビ的なコンテンツ、あるいは実際にテレビで配信されるコンテンツに表示される広告も、さらに売り込もうとしている。
以前米DIGIDAYがレポートした通り、YouTubeは今年のアップフロントで、YouTube TVを独立オプションとして広告主に売り込んでいる。ただしインベントリーへのアクセスを得るためにはGoogle Preferredの購入が必要だ。YouTube本体と切り離すことで、広告主にとってはYouTube TVをほかのアドレサブルテレビ広告と比較しやすくなる。しかし、広告主にテレビ広告購入と比較検討してもらうため、YouTubeはほかにも手を打っている。
広告主は、YouTube TVのインベントリーを購入する際、特定の番組への広告表示を取りやめることができる。これらの番組のテレビネットワークでの広告枠をすでに買っているケースや、コンテンツとブランドを関連づけてほしくないケースへの配慮だ。さらに、YouTube TVの特定のオーディエンス層について、年齢と性別以上のターゲティングを実施し、ニールセン(Nielsen)の協力のもと、特定オーディエンスへの配信保証を行う予定だ。
すなわち、広告主はYouTube TVを利用することで、従来型テレビキャンペーンの穴を埋めるように、リーチするのが難しいオーディエンスに的確に広告を届けることが可能になると、前述のエージェンシー幹部はいう。
YouTubeはテレビ番組事業の一部をスケールダウンさせているとの報道もあるが、同社はオリジナル番組市場からの撤退は検討していないと否定する。
YouTubeは今後、オリジナル番組「YouTube Originals」を、広告収入ベースの無料版でも初回配信する。これまでは広告なしの有料版会員のみが視聴できた。番組を広告つき無料版で配信する期間についてはまだ検討中だが、ウォルパート・レビー氏によれば、その期間は「かなり長い」という。なお、この広告つき無料配信の期間中、広告主がYouTube Originalsの番組に特化して広告を流すことができるのかについて、同社はコメントを避けている。
また、番組クリエーターとの提携により、ブランドを番組の一部として宣伝するスポンサーシップについて、従来型テレビ番組で用いられるようなカスタム仕様の形で機会を提供する予定であると、ウォルパート・レビー氏は述べた。
ブランドセーフティとリーチに関する懸念
テレビ広告出稿企業に熱視線を送るYouTubeは、彼らがYouTube広告に対して抱いている、いくつかの重大な懸念を解消する必要があるだろう。具体的には、プラットフォームの安全性と、短期間に大勢のオーディエンスに広告を届けられるかどうかだ。
YouTubeはこれまで、Google Preferredは最高の価値と安全性が保証されたインベントリーであると謳ってきた。2017年3月にはじめてブランドセーフティ問題が露呈して以来、この2年間、YouTubeは動画の審査プロセスを強化してきた。Google Preferredに含まれる動画には、ブランドセーフティ問題は「ほぼ」存在しないと、ウォルパート・レビー氏はいう。
しかし、Google PreferredはYouTubeのブランドセーフティ問題とまったく無縁かといえば、そんなことはない。最新動向として、子どもを映した動画に性的な含みのあるコメントが発見された問題では、Google Preferredの動画のうち1本に不適切コメントがみられた。「チャンネルにブランドへの脅威になる要素は何もない。ごく一部のコメントの問題だ」と、ウォルパート・レビー氏は釈明する。
今年2月のコメント騒動を受け、YouTubeは広告主をなだめるべく、未成年者が映っている動画のコメント機能を停止した。この件をめぐり、AT&T、ディズニー、マクドナルドといった企業はYouTubeから広告を引き揚げていた。「一部の企業は広告出稿を停止し、まだ停止したままのところもあるが、ほとんどはすでに戻ってきていると思う」と、ウォルパート・レビー氏はいう。
YouTubeのブランドセーフティ問題そのものには神経を尖らせるアドバイヤーだが、今回の騒動にはおおむね静観を保っている。しかし、依然としてブランドセーフティはクライアントの関心事だ。YouTubeのブランドセーフティをめぐって新たな問題が浮上すれば、「クライアント側の幹部クラスから、早急な対策と意見を求められる」と、前述のエージェンシー幹部はいう。こうした懸念は、YouTubeとアップフロント契約を結ぶことへのクライアントの関心の度合いにも影響を与える。なぜなら、アップフロント契約はふつう、広告主が12~18カ月にわたってプラットフォーム上に広告出稿を行うという取り決めを意味するからだ。
広告主は、長期的なブランドセーフティへの懸念に加えて、短期間に大勢の人々に広告を届けるにあたってYouTubeが本当に効果的かどうかを不安視している。テレビ広告の放送モデルでは、広告主は多数の人々に比較的安価にリーチすることができる。だからこそ、彼らは価格上昇にもかかわらずテレビ広告の出稿を続けているのだ。YouTubeでの広告表示は個人単位なので、広告主は期待しているタイミングでターゲットのオーディエンスに広告を見せることができないのではないかと危惧している。
広告主のリーチに関する懸念に対処すべく、YouTubeは内部調査を実施し、YouTubeと米国のテレビネットワークのリーチを比較した。評価基準は、ターゲットの延べ視聴率(TRP)の目標値に達するかどうかだった。TRPは、テレビ広告指標である延べ視聴率(GRP)のうち、広告主のターゲット層に限定したものをさす。YouTubeのターゲット層は18~49歳の成人とし、TRPの目標値を125に設定して、2度のテストで目標達成の成否を判断した。1週間に渡ってテレビだけで広告を流し、また別の週に1週間にわたってYouTubeだけで広告を提示した。その結果、同社によれば、YouTubeはテレビと同じくらい早く目標値に到達し、当初の目標を上回る153というTRPを、従来型テレビよりも10~15%低コストで実現した。なおYouTubeのオーディエンスの平均年齢は、テレビ視聴者よりも8歳若かった。
YouTubeは近年、徐々にテレビ広告市場に食い込むようになってきた。エージェンシー幹部が米DIGIDAYに語ったところによると、昨年もYouTubeはテレビネットワークから広告費を奪取することに成功した。従来型テレビの視聴者の減少が見込まれ、広告主が費用対効果の観点から予算の再配分を迫られるなか、YouTubeはこれまで以上に広告費を獲得するのに有利な立場にある。そのためには、テレビ品質のコンテンツをテレビ画面で配信し、テレビと同等のリーチを達成できることを、広告主に納得させさえすればいいのだ。
「YouTubeがいま以上にテレビ広告費を手にするための体制づくりをしているのは間違いない。今年とは言わずとも、2年以内にはそれが現実になるだろう」と、前述のエージェンシー幹部は述べた。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)