自由に移動できるパナソニックの「レイアウトフリーテレビ」(TH-43LF1)
しかし、スマートフォンの普及により、テレビの役割や使い方に変化が訪れています。放送番組ではなく、動画配信を見ることが増え、さらにリビングで家族みんなで見るのではなく、個人個人で見るスタイルが広がっています。
そんななか、新しいテレビの使い方を提案する製品が登場しました。それがパナソニックの「レイアウトフリーテレビ」(TH-43LF1)です。
TH-43LF1(以下、レイアウトフリーテレビ)は、スタンドにキャスターを備え、好きな場所に移動できるテレビです。
パナソニックではこれまでも放送波や動画をテレビ(モニター)にワイヤレス伝送するポータブルテレビ「プライベート・ビエラ」シリーズをラインナップしてきました。レイアウトフリーテレビでは、同シリーズで採用している無線伝送技術と、BDレコーダー「DIGA」シリーズで培った高画質圧縮技術を組み合わせることで、業界初となる4K放送のワイヤレス伝送を実現しています。
製品について細かく見ていきましょう。レイアウトフリーテレビは43V型のモニター部と、別体のチューナーで構成した液晶テレビです。モニター部に搭載している液晶パネルの駆動方式はIPS方式。解像度は3,840×2,160ドットの4Kに対応しています。
モニター部のサイズは980×492×1,182mm(幅×奥行き×高さ、TVスタンド含む)。重さは約24.5kgです。本体背面にHDMI端子を2基搭載しており、家庭用ゲーム機などを有線接続できます。
チューナー部のサイズは、215×215×80mm(幅×奥行き×高さ、突起部含まず)で、重さは約1.8kgです。地上/BS/CSデジタルチューナー3基と、BS4K/110度CS4Kチューナー2基を内蔵しており、4K放送の受信に対応。容量2TBのHDDも搭載し、受信した放送番組をたっぷり録画できます。4K放送は4K解像度のまま、最大12倍の長時間録画も可能です。なお、チューナー部のUSB端子にはUSB HDDを接続できますが、チューナー部の内蔵HDDに保存した写真や動画のバックアップ用途となり、USB HDDにテレビ番組を録画することはできません。
モニター部は電源ケーブルをコンセントに接続するだけ。チューナー部には電源ケーブルとアンテナ線、インターネット機能を使う場合は有線LANを接続します。そして、リモコンで電源をオンにすると、自動的にモニター部とチューナー部がワイヤレスでつながり、映像が映し出されます。モニター部とチューナー部の間の接続設定は必要ありません。
自宅の壁にあるアンテナ端子の近くにチューナー部を設置しておけば、モニター部は自宅の中を自由に移動して利用できます。筆者の事務所は小さな1LDKなので、それほどモニター部とチューナー部の距離を離してテストすることはできませんでしたが、モニター部を隣の部屋に移動しても画質劣化もなく、きれいにテレビ映像を表示できました。パナソニックによる住宅展示場での試験では、戸建て住宅の1階と2階をまたぐように置いても映像を受信できたそうです。
機能面についても簡単に触れておきましょう。高画質化機能としては、ディープラーニング技術を活用し、自動的にシーンを判断する「オートAI画質」を搭載。また広色域で色を忠実に表現する「ヘキサクロマドライブ」や、HDR映像を色鮮やかに映し出せる「ハイブリッドトーンマッピング」なども備えています。また、GoogleアシスタントやAmazon Alexaを搭載したスマートスピーカー(別売)に対応し、パナソニック製の家電と連携できるIoT機能「音声プッシュ通知」を搭載。エアコンや洗濯機などの稼働状態を音声で知らせてくれます。
実際にレイアウトフリーテレビを事務所のリビングダイニングに2週間設置してみました。14畳のリビングダイニングは長方形の短辺の東側にシステムキッチン、西側にテレビを配置した壁面となっており、その間にダイニングテーブルやソファなどが配置されているレイアウトです。それまでは55V型の液晶テレビをテレビ台に置いて使っていました。それをレイアウトフリーテレビに変えました。
前のテレビと同じ位置に置いた場合、そのままソファからテレビを見ると、画面サイズが小さくなったぶん、迫力がなく、やや見づらく感じました。しかし、レイアウトフリーテレビはモニター部を自由に動かして、ソファテーブルやダイニングテーブルの前まで移動させられるのです。
この効果は想像以上でした。2m離れた場所の55V型テレビより、1mの距離の43V型テレビのほうが視界に占める画面は大きくなります。その迫力は映画館や、家電量販店で70~80V型クラスの超大型テレビを間近で見たときのよう。スタンドにキャスターがついているので、ちょうどいい距離に調整するのも手軽です。
便利なのが、キッチンやダイニングにいるとき。これまでは遠くにあるテレビを音量を上げて見るか、テレビを見ること自体を諦めていましたが、レイアウトフリーテレビならゴロゴロと動かして近くに寄せられます。また、ダイニングテーブルの横に持ってきて、パソコンと接続してモニターとしても使えます。
モニター部を移動するときに、電源ケーブルを引っ掛けて倒してしまわないための工夫として、電源ケーブルにマグネット式のタップを備えています。モニター部を動かしたときにケーブルが引っかかっても、タップからプラグが外れるため、テレビが倒れるのを防いでくれるというわけです。
モニター部の電源ケーブルは、下のスタンド内の引き出しに収納して、ジャマにならない長さに調整できます。ここが掃除機の電源ケーブルのように自動で巻いたり、伸ばしたりできるともっと便利に使えそうです。
モニター部はスタンド部に重心があり、動かすときに簡単には倒れないようになっています。バックパネルを押してゴロゴロ移動できますが、スタンド底面にあるキャスターがケーブルなどを踏むと不安定になるので注意が必要です。このキャスターはボール型ではなく、前後と回転の2軸ある旋回タイプなので、無理に動かすとガタつきます。両手で優しく動かすようにすると良いでしょう。
使っていて面白いと感じたのが、モニター部を後ろ向きにすると、部屋から“黒い壁”がなくなることです。通常、テレビは電源をつけていないと画面が真っ暗になります。大画面テレビほど黒い面積が大きくなり、壁の大部分をおおってしまいます。
しかし、レイアウトフリーテレビは優しいホワイト調のボディカラーで、背面の端子部分もカバーで隠されているため、裏に向けていても違和感がないのがポイントです。
レイアウトフリーテレビを使って2週間、テレビの見方やリビングでの過ごし方が大きく変わりました。
このテレビはただ放送番組を見るだけでなく、2TBの内蔵HDDに録画した番組を見ることができ、YouTubeやNetflixなどのネット動画の視聴にも対応しています。このため、視聴距離を離して家族で一緒に見たり、近くに持ってきて一人だけで楽しむといった使い分けができます。スマートフォンやタブレットなど、複数のディスプレイを使い分けるように、用途やコンテンツに合わせてテレビを動かして使えるのが魅力です。
ただし、いくつかの不満点もあります。ひとつはHDMI入力がモニター側のみで、チューナー側には搭載されていないこと。このため、BDレコーダーや家庭用ゲーム機などを使う場合はモニター側に有線接続する必要があります。ワイヤレスで映像を伝送する場合、ゲームなどは遅延の影響があるためですが、外部のレコーダー映像などはワイヤレスで飛ばしてくれたら便利なのに、と感じました。
こういうときは、宅内ネットワークにつながっているDIGAなどと連携する「お部屋ジャンプリンク(DLNA)」を使って欲しいとのことですが、使い勝手に差がある現状ではちょっともったいない印象です。
もうひとつはサウンド面。モニター部には実用最大出力20Wのフルレンジスピーカーが搭載されており、5種類のサウンドモードの設定が可能です。ただ、薄型テレビなので音の迫力不足は否めません。
こういうときは別売のサウンドバーなどを組み合わせることになるのですが、レイアウトフリーテレビはワイヤレス伝送をしている関係で、音声のデジタル出力はできない仕組みになっています。アナログのイヤホン出力で外部スピーカーにつなぐか、Bluetooth対応のスピーカー、またはヘッドホンを利用するとよいでしょう。
気になったマイナス点にも少し触れましたが、それでもレイアウトフリーテレビが革新的なテレビであるという思いは変わりません。リビングに設置したテレビをキッチンやダイニングに動かして見られるのはもちろんのこと、同じフロアにあれば寝室に移動することもできます(重いので階の移動は厳しい)。必要なのは電源ケーブルを差し替えるだけ。テレビとの関係がより自由になります。
実売価格が執筆時点で22万円前後と、43V型テレビとしては非常に高価ですが、リビングを自由にしてくれるテレビは他にありません。今回使ってみた結果として、個人的に非常に惹かれており、購入を検討しています。実際に体験してみるとこの価値がわかるはずです。ただし、ひっかかっているのはやはり価格。現状、画質性能で同等クラスのテレビの倍と、ちょっと二の足を踏む価格差です。もう少し値下がりしてくれたらと願っています。