2022年02月27日 15:00更新
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「越後美人」や「越の若竹」で知られる酒蔵 上越酒造は、杜氏の高齢化など、人材難を克服するため、酒造りと縁のない異業種の会社に株式をすべて譲渡し、その子会社として再スタートしました。これまで職人の勘と技が頼みだった酒造りは、機械化などで大きく変わっています。果たして老舗の味は守られたのか? 現場の様子を取材しました。
酒のできを確かめるのは、工場長の川口正高さんです。なんと川口さん、酒造りは初めて、まったくの素人です。
工場長 川口正高さん「酒造りは初めて。機械は使ったことがない。非常に期待はある」
上越市飯田にある酒蔵、上越酒造です。越後美人と越の若竹で知られる、創業文化元年、210年あまり続く老舗です。
しかしここ数年、杜氏の高齢化など後継者不足のため廃業の危機にありました。
そうした中、県の仲介で去年8月、東京にある日本トーターに株式をすべて譲渡し、子会社として新しいスタートを切りました。
会長 飯野美徳さん「私の代で途切れるかと思えば、引き継いでもらいありがたい」
日本トーターは、酒造メーカーではありません。全国で公営競技場を運営する会社です。工場長の川口さんは、オートレース場のシステムメンテナンスを担当していました。杜氏の経験が無いのに酒造りができるのでしょうか? その鍵は、酒の出来を左右するとされる、麹づくりに導入した温度管理システムにありました。
パソコンやスマホで温度管理
このシステムでは、麹を寝かす部屋やもろみを作るタンクの温度が10分おきにパソコンやスマートフォンに送られてきます。管理者は、どこにいても温度を確認することができるのです。
工場長 川口正高さん「酵母が増殖しやすいように、温度管理をする。酵母が動ける環境ができた。アルコールも出すので、酒造りには重要」
さらに、洗米作業も機械化しました。これまで3人で行っていた工程が1人でできます。
機械化によって、酒造りは大きく変わりました。杜氏でもあった会長の飯野さんに不安はなかったのでしょうか。
会長 飯野美徳さん「慣れてきた酒造りが体に染みついている。(私のアドバイスが)経験として役立てばありがたいが……」
工場長 川口正高さん「先代の杜氏、飯野さんの技を学んで、温度や操作をマニュアル化したい。誰でも酒造りができるように進めたい」
飯野会長と川口工場長の二人三脚。果たして、老舗の味は守られたのか? その成果が分かる日が来ました。仕込みから1か月後。初搾りの味は……。
会長 飯野美徳さん「思わず飲んじゃった。おいしい、いいね~」
工場長 川口正高さん「こんなにおいしくなっちゃった」
「杜氏」が居なくても、機械化やIoT技術で老舗の味は維持できると 川口工場長は手応えを感じています。
工場長 川口正高さん「会長から『おいしい』はうれしい。若い人にも受け入れてもらえる酒ができた」
酒蔵の事業継承 今後も続く見通し
ところで、人材不足や後継者難などの課題は上越酒造だけでありません。県酒造組合高田支部によりますと、上越市、妙高市には昭和初期、60あまりの酒蔵がありましたが、現在は15に大きく減りました。このうち上越酒造を含む5つの酒蔵で事業継承が行われ、経営者が変わっています。
高田支部支部長 竹田 成典さん「後継者問題、上越・妙高は小さな蔵が多い。これからも事業継承は出る。ほかの業種から見て、『日本酒』は魅力的なのでは」
個性のある酒をいかに造るか
上越酒造のように機械化の動きは広がる傾向にあります。一方で、個性のあるものをどう作るかが大切だと支部長の竹田成典さんは話します。
高田支部支部長 竹田 成典さん「(機械化)かなり進んでいる。1番の問題はどういう酒を造るか。個性のあるもの、そこがないと機械化しても売れないのでは」
コロナ禍で消費の動向が大きく変わる中、酒造りの現場にも変革の風が吹いています。これまでのやり方にとらわれない挑戦が始まっています。
新生、上越酒造の酒は3月上旬に発売予定です。詳しくは3月にオープンする上越酒造のホームページをご覧ください。