「ロケットが発射したかのよう」フォーデンが次のレベルへ進んだワケ。背後にいたスプリントコーチの存在

沿って : Ilikephone / On : 12/03/2023

リヴァプールのコーヒーショップでの何気ない会話が、トニー・クラークの人生を一変させた。

「僕が一晩にして成功を手にしたと言うだろうけれど」と微笑みながらクラークは『Goal』の取材に応えた。「でも、そこにたどり着くまでに25年かかったんだよ」と続けた。

1980年代に活動したスカ・バンドに子供の頃風貌が似ていたということから「マッドネス」というニックネームを持つクラークは、有名な陸上クラブ、リヴァプール・ハリアーズのコーチを務めている。このクラブはスティーヴ・スミス、アニカ・オヌオラ、カタリーナ・ジョンソン・トンプソンといった有名陸上選手を輩出してきた。

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自身も長距離ランナーとして才能を発揮したクラークだが、ダンスイベントの主催や自動販売機ビジネスの経営といった本業と両立させながらコーチ業を続けてきた。

ハリアーズでは高いレベルのアスリートと仕事をともにした。オリンピアンやパラリンピアンの他にも、多くのサッカー選手やラグビー選手、ボクサーもトラックで指導してきた。

そして2019年の終わり頃、オーウェン・ブラウンとの会話こそすべてが始まるきっかけとなる。

ブラウンはマンチェスター・シティで活躍するフィル・フォーデンの代理人だ。ブラウンとクラークは昔からの知り合いで、リヴァプールのショッピングセンター、メトクォーターにあるコーヒーショップ『Antonio's』でいつも会って話をする仲だ。

このときはブラウンがフォーデンのドリブル能力について話を持ちかけた。するとクラークが「彼はもっと速くなるかもしれないよ、と言ったんだ」とさえぎったのだった。

「そして理由を説明したら、それでおしまい。それ以上は考えなかった。そうして僕らは一日を過ごしたわけだ」

「だが、その数日後、電話が鳴った。知らない番号だった。『もしもし、フィル・フォーデンです』だってね。僕はいたずらだと思い、『わかったよもう…わかったから!』という感じだった。すると彼はオーウェンの名前を出した。それで、ようやく本物のフォーデンだと分かったんだ」

「結局、電話口で話をすることになって、僕の言いたかったことを説明したんだ。出足を速くすることができるかもしれない、とね。すると彼は『OK、会いに行ってもいいかい?』と聞いてきたんだ」

■フォームを改善した“六角形”

(C)Getty Images

フォーデンとクラークはある冷え込む晩に、ウェイバーツリー・アスレチックス・センターで会うことになった。そこでクラークはフォーデンのフォームについて3つの不完全な点に着目し、修正しようとした。

「あれが彼にとって最初の3ステップだった。ストライドが大きすぎたんだ。体の下、おしりの下で足が着地するようにもっと歩幅を狭くしないといけなかった」

「ストライドを大きくしすぎると、踵から着地することになる。すると、基本的に足が地面に着いている時間が長くなりすぎてしまうんだ。踵で蹴るスタイルからつま先で蹴るスタイルに変えればいいのに、そうすればずっと良くなるのに、と思ったよ」

そのようにして8度の練習を終え、2人は共同作業をすることになった。

「本当に単純な運動から始めたんだ」とクラークはその内容を説明する。

「ラダーを使った練習やフットワークの練習、ストライドについての練習からだった。フィルについて最初に気がついたことは、彼が本当に学びたいと思っていることだ。正直に言えば、1回か2回練習に現れてそれっきりになると思っていた。だが、僕の言っていることや、やってほしいことを理解してくれた」

「練習を数回やったあと、彼にNFL選手のビデオを見せ始めた。短距離走や加速、方向転換についてのビデオだ」

「それから彼にこう言った。『時計の盤面を想像してほしい。中心からスタートして、12時の方に進んでほしい、次は1時、2時、3時…と指示するとしよう。必要なことは何だろうか? NFLの選手を見れば、答えは足にあるとわかるだろう。最初に足が動き始めて行きたい方向を向く。それから腕を動かし、走り出すんだ』」

「『NFL選手が方向転換するときは、まずサイドステップをしてから体の向きを変えている。だが君が同じことをやろうとすると、大腿四頭筋やハムストリングス、大殿筋が使えていない。力や推進力をうまく作れていないんだよ』」

「そうして、僕らは『六角形』の練習を山程やった。彼は六角形の中心にいて、足踏みをする。そして僕が『2時』『6時』『9時』と行き先の方角を指示し、その方向に走っていくというやつだ」

「まず足を使って、それから脚がついてくるように腕を動かす、この方向転換の練習に僕たちは取り組んだ」

「ロケットが発射したかのよう」フォーデンが次のレベルへ進んだワケ。背後にいたスプリントコーチの存在

もちろん、ロックダウンの影響で練習が中断したこともあったが、フォーデンは初期の練習で見出すことができた進歩を、もっと経験したいと思っていた。クラークは「彼の家に言って、裏庭で練習をしようと頼まれたんだ」と明かす。

「裏庭と言ったけれど、どちらかというとサッカーのピッチみたいなところだったんだよ。スピードや敏捷性を鍛えた。彼には目標があったから、そのあたりを色々とやっていた」

「携帯に彼の練習中の映像がいくつか残っているよ。フリーキックをゴール上隅にねじ込んだり、30ヤード離れたところからボールをネットのてっぺんに載せたりね。ヤバすぎるよ」

Getty Images

その頃にはロックダウンが明け、シティは練習を再開していた。フォーデンは違いを実感していたと、クラークはにんまりとした笑顔を浮かべる。

「再開後最初の練習で、ペップ・グアルディオラが彼の出足のキレについてコメントしていたと言っていたね。彼は、スプリントコーチとトレーニングしていると言って、僕らのトレーニングについて説明したんだそうだ。するとペップは『その調子で続けてくれ』と言ったそうだ」

「再開後最初の試合では、ベンチから途中出場して得点を決めたんだ(※アーセナル戦)。そして2試合目では2得点してMOMに選ばれた(※バーンリー戦)。試合が終わって5分後に僕に電話してくれて、『オーマイゴッド!ロケットが発射したみたいだったよ!』みたいな感想を言ってくれた」

「彼は進歩を実感することができたし、今は皆も彼が進歩したことがわかると思う。スタートがものすごく速くなったし、それを90分維持することもできている」

■新たな顧客にイングランド代表DFも

クラークにとっては、この数か月間が大きな変化を起こすきっかけに。他の誰でもないフォーデンこそが、クラークがコーチング業一本でやっていくにあたって背中を押したのだ。

フォーデンはクラークを手伝い、「@needforspeed100」というアカウントを開設した。プレミアリーグのビッグネームの一人が後押ししたことで、さらに多くの注目を集めることとなる。

クラークは現在、多くのサッカー選手と仕事をしている。マンチェスター・ユナイテッドのチャーリー・マクニール、マンチェスター・シティのルイス・フィオリーニ、ウィガンのジェームス・キャラガー(ジェイミーの息子)のようなユースの選手から、リヴァプール女子チームのスター、ミッシー・ボー・カーンズ、そしてリー・ペルティア(ミドルスブラ)やジョン・フラナガン(HBキューゲ)のような有名男子選手まで手掛けている。

また、ウルヴス所属のイングランド代表DFコナー・コーディもクライアントの一人だ。「リヴァプールのアカデミーにいたときからの知り合い」と語るクラークはすぐに欠点を見抜いたという。

「カークビー(※リヴァプールの練習場がある地域)まで行って彼のことを10日間観察した。欠点ははっきりしていたね。足の裏全体で着地していたんだ。走っているときも、手をポケットに入れているような感じだった。ストライドにも角度がない。だから推進力を生み出せていなかったんだ。だから、ラダーの練習や、接触時間を減らして、腕を使って素早く前に進む練習をたくさんやってもらったね」

「彼と連絡を取り続けた。練習メニューやアイデアを送ったんだ。そしてEUROの直後の夏に、練習を少しだけ一緒にやった。フィルと一緒にやった『六角形』の練習を使って、脚のポジショニングを練習したよ」

「終わった後で彼はこう言っていたよ。『あークソ、ヌーノ(エスピーリト・サント)から、お前の脚は全然正しくないと2年間ずっと言われ続けてきたんだ。今ようやく意味がわかったよ』とね」

「彼の家に『六角形』を送ってやって、週に1、2回使うように話したんだ。『脚を動かせ、違う方向にだ。とにかく続けるんだよ』と言っておいた」

「やり続けているよ、と今でもメッセージをくれるんだよ。これこそがコナーだね。ウルトラ・プロフェッショナルだ」

■「ほんの0.5%でもスピードの持久力を上げればすごいこと」

クラークと1時間ほど一緒にいると、彼は仕事が大好きだということがよくわかる。話には情熱がこもっており、どんな場面でも話ができるようだ。

例えばNFLのような他のスポーツも熱心に学んでいるし、プレミアリーグのスピード自慢の選手のことも記録に残している。

クラークが言うには、フォーデンはそのランキングの1位になりたがっているのだそうだ。だが、相手はサディオ・マネ、アダマ・トラオレ、カイル・ウォーカーやアラン・サン=マクシマンらだ。そして驚くべきことにレスターのチャグラル・ソユンクも2019-20シーズンにランク上位に入っている。競争は厳しい。

「あのランキングのおかげで試合の見方が変わったね」と笑う。「僕はリヴァプールのファンで、トレント・アレクサンダー=アーノルドみたいな選手のことを見ると、彼ももっと速くなれるんじゃないかと思っている。彼もストライドが大きすぎるんだ」

「(イブラヒマ・)コナテがちょっと心配だね。フォワードが距離を詰めてスピード勝負になったら、おしまいだろう」

「背が高ければ、必然的に加速が遅いものだとみんな思っている。だが、人類最速は誰だい? ウサイン・ボルトだよ。彼の身長はどうだ? 6フィート5インチ(約195cm)だよ!」

「トレントと仕事をして、彼のストライドを小さくしてあげたいね。僕なら、10〜15ヤード(約9.1〜13.7m)くらいの急坂を走らせるかな。コナテや、若手のリース・ウィリアムズも同じだね。皆とんでもないアスリートだけれど、もっと速くなれるよ。スピードに乗れば速いというのはいいことだが、プレミアリーグではその時点でもう遅すぎるかもしれない」

さらにクラークはこう付け加えた。

「スピードの持久力が大事なんだ。90分スピードを保てるかどうか。選手が試合でやっていることを見てみるといい。12kmも走って、40〜50回のスプリントをして、数え切れないほどの加速や減速を繰り返しているんだ」

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「だから、ほんの0.5%でもスピードの持久力を上げたり、加速減速を向上させることができればすごいことになるんだ。それはフィルが実現したことでもある。その恩恵は今誰もが目にしているよね」

今季のフォーデンは公式戦21試合に出場し、7ゴール6アシストを記録。昨季から続く好調をさらに加速させている。