NTT澤田社長、消費者向け5Gの良さは「メタバースなどが広まらないと実感しづらい」の画像
NTTは2022年2月7日、2021年度第3四半期決算を発表。売上高は前年同期比2.1%増の8兆9232億円、営業利益は前年同期比2.5%増の1兆5396億円と、増収増益の決算となった。 同日に実施した決算説明会に登壇した代表取締役社長の澤田純氏によると、業績好調の主な要因はNTTデータの好調によるところが大きいという。国内外の企業向けデジタル化需要が急拡大しており、1件当たりの規模は大きくないものの、「DX(デジタルトランスフォーメーション)コンサルティングなど利益率のいい案件がどっと増えている」(澤田氏)ことが売り上げ、利益を大きく押し上げる要因となったようだ。 そこで澤田氏は、2021年度の業績予想を上方修正すると発表。実質的にはNTTデータが業績の上方修正を発表した売上高1800億円、営業利益350億円がそのまま上乗せされる形となるが、営業利益については海外事業を担うNTTリミテッドがコロナ禍や半導体不足で苦戦しているという。その構造改革営業利益に150億円を追加することもあって、150億円の上方修正にとどまるとしている。 他にもNTT東日本、NTT西日本の地域通信事業が好調だというが、コロナ禍で一時的に高まった音声カンファレンスサービスの需要が一巡し、NTTコミュニケーションズを主体とした長距離、国際通信事業の利益が落ち込んでいるとのこと。 だがより一層利益を押し下げているのが、NTTドコモを主体とした移動通信事業であり、その要因は、引き続き政府要請による通信料金引き下げの影響を大きく受けていることにある。 「ahamo」など低価格サービスの利用が増えたほか、MVNOにネットワークを貸し出す際の音声卸料金の大幅な値下げなどの影響により、モバイル通信サービス収入は前年同期比で565億円減少している。 成長分野でもあるスマートライフ領域などは順調に伸びているというが、料金引き下げに加え5Gの投資拡大によるネットワーク整備コストの増加、ポイント会計制度の見直しの影響などもあって、ドコモの営業利益はトータルで対前年比521億円減少したという。 そのahamoの契約数について、澤田氏は開示していないとしたものの「200万の真ん中くらいまで来ている」と回答、依然好調が続いているとのこと。一方で2021年10月から新たに開始した「エコノミーMVNO」については、「提供が遅れたが認知も十分ではない」と、まだ伸び悩んでいる様子を示した。2021年12月からプロモーションを積極化したことから、今後の伸びを期待したいと澤田氏は話している。 また、ドコモは2021年12月から、「ドコモメール持ち運び」でキャリアメールの持ち運びサービスを開始しているが、澤田氏はキャリアメール持ち運びが「(番号ポータビリティでの)ポートイン、ポートアウトがどっと増えているかというと、大きな差はない」と回答。一定数の利用はあるものの、そこまで多く利用されている訳ではない様子を見せている。 もっとも澤田氏は、政府による一連の要請によって携帯電話料金が大幅に引き下がったことから、「もう世界一の安さになっていることを考えれば、(料金引き下げ)競争は一息ついていると思う」と回答。そうしたこともあってかドコモの営業利益も四半期ごとに改善が進んでいるそうで、第4四半期にはドコモの再編による法人事業の強化やコスト効率化などによって「大幅な収支改善が見込めると見ており、ドコモの年間計画達成は十分可能」だと澤田氏は話している。 ただ、首相が岸田文雄氏に交代して以降、5Gのエリア整備への注目度が高まっている。政府が「デジタル田園都市構想」を掲げ、携帯電話事業の各社へ地方への早期の5G拡大を求めている状況にある。政府は2023年度までに5Gの人口カバー率90%達成を求め、携帯電話事業各社に整備を加速するよう要請をしているが、澤田氏は5Gのエリア整備に関して、ノンスタンドアローン(NSA)運用と、スタンドアローン(SA)運用の違いに理解が必要だと話している。 現状の5Gネットワークは4Gと一体で運用するNSA運用であり、5Gの一部の性能しか発揮できないが、SA運用で整備されたネットワークは5Gの性能をフルに発揮できる。澤田氏によると、競合他社はNSAを前提にした普及率を示しているが、ドコモはSAを主体をしたエリア整備整備計画を打ち出しており、5Gの普及率だけでなく、その実力を体感できるネットワークの質に違いがあることを理解して欲しいと訴えている。 また5Gの利用を促進するサービスについて、澤田氏は「5Gの最初の良さは企業で出る。IoTや高速通信などが企業のDXに使いやすい構造になる」と話し、2022年から2023年にかけて法人での5G利用が拡大するとの見方を示した。 一方の消費者向けの5G活用サービスについては、SA運用への移行や、5Gの高い性能が求められるメタバースなどのサービスが広まらなければ実感が難しいとし、「もう2年ではちょっとしんどい」と法人向けより一層の時間がかかると見ているようだ。 そのメタバースに対する取り組みについて問われた澤田氏は、短期的には2020年からオウンドメディアの1つ「DOOR」でメタバースの要素を取り入れるなどの動きを進めているというが、今後より精緻で現実感の強いサービスを提供する上で処理するデータ量が膨大になることから、同社が構想を推し進めている「IOWN」が実現には不可欠との認識を示している。 なおドコモは2月1日、IPv6シングルスタック方式の導入時に通信障害が発生、一部の利用者がデータ通信や音声通話がしづらくなるなどの問題が起きている。決算の発表と同日の2月7日には、その影響が約1万8000人に及び、発生原因についても「IPv6シングルスタック方式の導入時に一時的にサーバの負荷が上昇し、ネットワークへの通信を制御するための信号が端末に送信されたため」と公表している。 2021年10月に発生した通信障害も新しいサービスの導入と移行に伴って発生したものだったが、澤田氏は前回の障害が協力会社との連携に問題があったとする一方、今回は「IPv6を読み取る部分の容量が足りなかった」と、サーバの容量不足や、それに伴う遅延発生時のシステム側の対処に問題があったと説明。前回とトラブルの質は異なるものの、ドコモには深い部分でのネットワーク設計を見直すなどして、再発防止に向けた対策を求めたいとしてる。
最終更新:CNET Japan