「IT産業が新たな産業に生まれ変わろうとしている」――。日本ユニシスの平岡昭良社長はこう考え、人月商売からサービス型ビジネスへの構造変革を推し進めてきた。「この十数年、従業員を増やさず、苦しい時期を乗り越えて、良い業績を出せるようになった」という変革への道のりを見てみよう。
基本的な方向は、社会的な価値を提供したり、創り出したりすること。それに向けて、2018年度にスタートした中期経営計画で、「より良い地域作りを目指すスマートタウン」や「新しい金融サービス創造を支援するネオバンク」など4つの注力領域を設定した。
「多分、そこに社会問題があり、マーケットが生まれるだろう」との仮説から取り組み始めたが、予想通り、エネルギーマネジメント、デジタルマーケティングを中心とするデジタル決済など新しいマーケットが芽生え始めているという。高齢者や空き家の問題、買い物難民など区域単位の街作り、スマートタウンへの期待も高まる。
日本ユニシス 代表取締役社長の平岡昭良氏(写真提供:日本ユニシス)
先鞭(せんべん)をつけたのは、2009年から始めた電気自動車(EV)の充電スタンド事業だろう。充電サービスの課金、決済の仕組みがカーシェアリング、MaaS(モビリティーサービス)へ広がり、エネルギー管理システムなどと組み合わせて、クリーンな低炭素社会の実現に貢献していく姿も見えてきた。問題は、収益に結びつくまで辛抱してビジネスを続けられるかだ。ちなみに充電スタンドの収益化には10年かかったという。
もう1つは「非化石証書」の発行だろう。ブロックチェーンを使って「間違いなく非化石に由来するエネルギー」と証明し、二酸化炭素排出ゼロに取り組む企業に経済価値を提供するもの。クリーンエネルギーを使用したい企業とクリーンエネルギーを提供する電力小売業者をマッチングしたり、既存エネルギーとクリーンエネルギーを組み合わせて1つの発電所とみなしてクリーンなエネルギーを安定的に供給するバーチャルプラントの仕組みを提供したり、クリーンエネルギーの取引所を運営したりする企業も現れている。
環境保護などの法制化がそうした動きを加速させるだろう。例えば、2021年3月にプラスチック資源循環促進法案が閣議決定され、プラスチック製のストローやスプーンを扱う企業や消費者の社会的な責任がますます問われることになる。そこで、デジタルの力を使って可視化し、プラスチック製ストロー/スプーンの破棄に向けて、企業や消費者の行動変容を促す。プラスチックストローの削減に取り組む企業や消費者と、それに役立つプロダクトやサービスを提供する企業をマッチングする。
そんなデジタル技術を駆使するビジネスが世界で始まりつつあるが、IT企業とは誰も呼ばないだろう。「エネルギーを購入し、価値をつけて電力小売業者などに売るというデジタルの可能性を引き出す新しい産業になる」と平岡氏は語る。IT企業が目指す道の1つに思える。
コンピューター業界、システム業界、IT業界と呼び方が変わり、今、デジタル技術を使ったガジェット系サービスを開発する企業やインターネットを使ったクラウドサービスを提供する企業、クラウドサービス上に付加価値ビジネスを展開する企業などが生まれている。ITツールを使った業務プロセスの効率化や合理化に取り組む伝統的なIT企業も自らのデジタル変革(DX)を推進し、社会課題を解決したり社会価値を創出したりする企業へと生まれ変わるチャンスなのだ。システム化と業務知識の両方を知っているのは、あらゆる業種の業務システムを手がけてきた経験やノウハウを持つIT企業だけではないだろうか。
こうした企業の文化は、伝統的なIT企業とは異なるだろう。例えば、システム構築を生業とするIT企業はレビュー、つまり失敗を許さない文化といえる。もちろんレビューは社会の求める高品質なシステムの実現に必要なことだが、イノベーションを起こすのを難しくする。
そのため、日本ユニシスは営業をビジネスイノベーション部門と呼ぶ。営業だけではなく、エンジニアらにもイノベーションの役割を担わせる。新規ビジネスに挑戦する“出島”を設ける企業はあるが、平岡氏は「これでは会社は変われない」とし、「一人一人に複数の役割を持たせることで価値観が変わり、多様性が生まれ、もっと面白いことができる人材になる」と考えた。結果、イノベーションを意識して行動する従業員が約7割にもなったという。新しいビジネスにチャレンジする従業員のお手並み拝見という傍観者はいなくなったのだろう。
業績を安定化させる第1段階から変革する第2段階を経た日本ユニシスは今、デジタル企業への仕上げ段階に入る。2021年度からスタートする次期中計に、平岡社長はどんな姿を盛り込むか注視する。