一方、Ultra HD Blu-rayで使われているHDR技術は「HDR10」というもの。HDR10もPQ(ST2084)を用いているが、メタデータの扱いがHDR10だとタイトル毎に規定され、Dolby Visionではシーン毎に設定できる点が大きな違いという。
現在の民生用ディスプレイでは液晶テレビのハイエンドモデルでも1,000nit超で、10,000nitというDolby Visionの明るさは必要以上に高く見える。実際、映画における平均画面輝度は25~40nitで、これはHDR化されても変わらない。ただし、画面のある一点の光の反射など10,000nitを大きく超える、というシーンも多い。こうした、小さな光源などの表現の違いが、全体的な画質や質感の違いに繋がることもあるため、不必要に高いスペックというわけではないという。
HDR10では、タイトルごとに「最大輝度1,000nit」等の静的なメタデータを持ち、そこからシーン毎の輝度を相対値で決めていく。一方、Dolby Visionでは、シーン毎に輝度情報などのメタデータを持つほか、より細かな制御を行なう場合にはフレームごとでもメタデータを持つこともでき、そのデータをLEDバックライト制御などに活かせるという。そのため、より正確かつ効率的にダイナミックレンジを高めることができるという。
また、メタデータを用いることで、効率的に輝度データをダウンマッピングできるため、対応コンテンツであれば、400nit程度の低価格な液晶テレビで1,000nitに迫る表現が行なえるなど、画質向上が見込めるのもDolby Visionの特徴という。さらに、例えば4,000nitを想定して製作されたコンテンツであれば、将来的にテレビの性能が1,500nit、2,000nitと向上していった場合、テレビを買い換えれば、同じコンテンツの実力をいっそう引き出せるようになるという。
日本では、NetflixがマルコポーロのDolby Vision方式でのHDR配信を開始(HDR10と併用)。また、ひかりTVも今夏にDolby Vision対応するほか、Amazonビデオもまもなく対応予定という。
一方、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)は、HDR10が必須で、Dolby Visionはオプションとなっている。現時点ではDolby Vision対応のUHD BDプレーヤーやタイトルは発売されていないものの、準備は進んでいるという。
Dolby Visionでは、ベースレイヤー(BL)と呼ばれる基本情報と、エンハンスメントレイヤー(EL)と呼ばれる追加情報をあわせて伝送し、再生機器のDolby Visionデコーダにおいて、出力先のDolby Vision対応を判別。Dolby Vision非対応の場合はBLのみを適用し、通常のSDRとして出力、Dolby Vision対応の場合はBL+ELを伝送し、Dolby VisionのHDRとして出力する。ELの容量はBLの25%以下となっている。
Dolby Visionのデコーダ/コンポーザー構成
UHD BDの場合は、10bitのHDR10をベースとし、Dolby Vision非対応機器にはHDR10を出力。対応機器の場合は、HDR10の信号に、ELとメタデータを加えて12bit相当化してDolby Vision出力する。ただし、BLとELで2系統のHEVCデータを扱うため、映像処理チップ側の対応が必要となる。2つのレイヤーをデコードするため、4K/60pのUHD BDコンテンツでは、2つのHEVCデコーダが必要になるなどプレーヤー側の対応に課題はある。ただし、4K/24pであれば時分割処理による1チップ処理が可能で、既に対応チップも完成しているという。