Yahoo!ニュース 富士通のパソコン40年間ストーリー【13】デジタル放送時代のデスクトップPCとAV機能の移ろい

沿って : Ilikephone / On : 20/03/2022

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単体でハイビジョン画質のデジタル放送録画を実現した32型オールインワンデスクトップPC「FMV DESKPOWER TX90L/D」(2005年4月発表)

Yahoo!ニュース 富士通のパソコン40年間ストーリー【13】デジタル放送時代のデスクトップPCとAV機能の移ろい

富士通のノートパソコンが軽量化・薄型化・小型化を得意とする一方、デスクトップパソコンはオーディオ・ビジュアル(AV)機能で先行し続けてきた点が大きな特徴だ。歴史を振り返っても、8ビットパソコンでいち早くAV機能を搭載したFM77AV、世界初のCD-ROMドライブ搭載パソコンとなったFM TOWNSなど、先進的なAV機能を盛り込んだパソコンを世に送り出し、その系譜はいまでも続いている。【写真】リビングの薄型テレビを「ディスプレイ」として使うことを想定したデスクトップPC「FMV-TEO」(2007年1月発表)2005年4月には、世界に先駆けてパソコン単体でハイビジョン画質のデジタル放送録画を実現した32型液晶ディスプレイ一体のデスクトップパソコン「FMV DESKPOWER TX90L/D」を発表した。実はこのとき、富士通がパソコン新製品の発表会見を行ったのは、2000年9月の初代LOOXの発表会見以来、4年半ぶりのことであった。東京・汐留の富士通本社で行われた記者会見には、100人以上の記者が参加。会見場には、実際の利用シーンを再現するために、リビングの様子まで再現してみせる力の入れようだった。当時、パソコン事業を指揮していた富士通パーソナルビジネス本部長の伊藤公久氏(のちの富士通パーソナルズ社長)は、冒頭の挨拶で「記者のみなさんにお願いしたいのは、『富士通、家電メーカーへ挑戦状』などとは書かないでほしいこと」と切り出して会場の笑いを誘った。一方で、「FM77AVやFM TOWNSなどによって富士通が追求してきたパソコンにおける、『見る・録る・残す』という世界を、『より美しく見る・より美しく録る・より美しく残す』という形に進化させたのが、今回のTX90L/D」と、画質へのこだわりを強調した。液晶パネルには、シャープが三重県・亀山市の亀山工場で生産した「亀山モデル」を選択。会見中のプレゼンテーション資料には「ハイビジョン・クオリティ」「大迫力液晶」といった言葉が散りばめられ、そこだけを見れば、まるで薄型テレビの新製品発表会見のようだった。こうした説明を聞くと、伊藤氏が使用を禁じた上述の言葉を使いたくなったメディア関係者もいただろう。実際、伊藤氏は「美しい映像はパソコンが創り出す」と述べ、「家電メーカーの薄型テレビと比べても遜色ない画質を実現した。音質にも徹底的にこだわった。AVに対して前向きに取り組んできた富士通が、デジタル放送への流れのなかで、その真価を発揮する段階に入る」と宣言してみせた。パソコンにテレビ機能を搭載した「テレパソ」元年は1994年、出遅れた富士通この分野では、松下電器産業(現:パナソニック)や日本IBM(現:レノボ・ジャパン)が先行。富士通は、それに次いで「FM TOWNS II Fresh TV」を発売。各社が相次いでテレパソを投入していった。もちろん当時はアナログ放送の受信だ。その後、2000年にBSデジタル放送が、2003年に地上デジタル放送がスタート。2006年に地デジ放送が全国で開始されるのにあわせて、テレパソの舞台はデジタル放送へと移行していった。ここで先行したのがNECだ。2002年8月に発売したBSデジタル/110度CSデジタル放送の視聴機能を実装した「VALUESTAR T」に続き、2004年5月には地デジにも対応した「VALUESTAR TZ」を発売。AV機能では先行していた自負があった富士通パソコンは、デジタル放送対応では出遅れてしまったのだ。この遅れは富士通社内でも大きな問題としてとらえられた。毎週のように「なぜ富士通はキャッチアップできないのか」という議論が繰り返されていたという。当時の開発部門は、デジタル放送に対応したテレパソを投入するには大きな課題を解決する必要があると考えていた。それは、ハイビジョン画質での録画を可能にすること。先行したNECのパソコンや、製品化されていたソニーのテレパソでは、これができていなかった。背景には、業界団体である一般社団法人電波産業会(ARIB)の取り決めがあった。パソコンの場合、デジタル放送の特徴であるハイビジョン画質で録画ができない、別売りのデジタルチューナーと組み合わせて録画してパソコン本体では処理を行わない――という仕組みが前提となっていた。その結果、操作の煩雑化や、余計なコスト高という課題があったのだ。デジタル放送は、アナログ放送とは異なり、録画を繰り返しても画像が劣化しないという特性がある。ARIBとしては、コンテンツ保護のために、自由度が高いパソコンにおいてデジタルコンテンツの取り扱いに制限をかけていたのは当然ともいえた。富士通の秘策だが富士通には、それを解決する秘策があった。パソコンでコンテンツ保護を実現する、ハイビジョンのデジタル録画に対応した専用LSIを開発することだ。パソコン部門の開発チームに加えて富士通研究所の開発部門と連携しながら、数億円規模の投資によってLSIの開発に着手。独自技術の活用によって、こうした課題の解決に挑んだ。テレパソに出遅れるという状況にはあったが、FMV-DESKPOWER TX90L/Dでは、2つのテクノロジーによってデジタル放送に対応したテレパソを実現してみせた。ひとつは、富士通独自の高画質化LSI「Dixel(ディクセル)」だ。「デジタルイメージ」と「アクセラレータ」の言葉を組み合わせたDixelは、入力した映像ソースをフルデジタル処理し、ディクセルフイルターによる輪郭強調や、3次元Y/C分離および3次元デジタルノイズリダクションなどのハードウェア処理により、徹底したノイズ低減を行う。そして液晶制御エンジンでは、液晶パネルごとの色の最適化やコントラスト調整など、高品位で美しい映像に向けた最適な処理機能を実装した。ディクセルはその後も富士通のパソコンに継続して搭載され、デジタル放送の画質で市場をリードする存在となった。もうひとつは、セキュリティLSIの開発だ。デジタル放送のコンテンツに関する著作権を保護して録画・再生するために、富士通が独自に開発した暗号化技術を採用。これを映像キャプチャーボード上に搭載し、録画した情報を暗号化してハードディスクに保存、再生時にはセキュアLSIによって復号化する。さらに再暗号化してパソコンの汎用バスを通し、メモリ上で専用アプリを使って複合化。適正なアプリで処理されているかをセキュアLSIがリアルタイムで監視し、クラッキングが発覚した場合にはコンテンツの流れを止め、適正な場合にはハイビジョン画質での再生を実現するという仕組みだ。セキュアLSIのポイントは、処理の大半をコスト面で有利なソフトウェアで実現し、セキュリティ維持機能だけをLSI化した点にある。これにより、パソコン価格の上昇を最小限に抑えることにも成功した。このセキュアLSIは、地デジ時代のコンテンツ保護を業界に提案した技術として、大きな注目を集めた。このLSIを開発したことで、富士通のデジタル放送対応テレパソは、トップシェアに躍り出ることになった。加えてパソコン本体への搭載だけでなく、Digital TV boxをオプションとして用意し、デジタル放送の視聴とハイビジョン録画の世界を広げていったのだ。FMV-DESKPOWER TX90L/Dでは、約3秒でテレビが視聴できる「インスタントテレビ機能」や、デジタル放送も含めた3番組を同時に録画できる「トリプル録画」、スポーツ番組の延長に自動で対応する「スポーツ延長録画」なども採用。大画面での操作性も考慮し、最長で10メートルの通信距離を持つワイヤレスキーボードとマウス、離れたところからリモコンで操作したり、文字入力ができるといった機能を持たせた。当然のことながら、FMV-DESKPOWER TX90L/Dはパソコンであるため、ソフトウェアによるノンリニア編集など、薄型テレビでは実現できない使い方も可能。ここも差別化ポイントのひとつとなった。もうひとつ見逃せないのは、パソコンを設置するためのオンサイトサービスを用意したことだ。FMV-DESKPOWER TX90L/Dは、「パソコン」に加えて、大型テレビやレコーダーの機能、高音質スピーカーも搭載している。よって総重量が41kgという、それまでのパソコンでは考えられない重さになっていた。そこで、薄型テレビの設置サービスと同様の仕組みを用意したわけだ。ここまでの仕組みを作り上げることで、リビングの中央に置く新たな時代のパソコンをサポートしたのである。パソコンの新しい提案「FMV-TEO」シリーズ2007年1月に発表した「FMV-TEO」もユニークなデスクトップパソコンだ。リビングでの利用提案を加速するために、HDMI入力端子を持つ薄型テレビにケーブル1本で接続して、インターネット上の動画コンテンツ視聴、デジタル放送の視聴・録画ができるという新コンセプトのエンターテインメント・リビングパソコンだった。FMV-TEOはDVDレコーダーのような本体デザインであり、ディスプレイには家庭内にいよいよ普及しはじめた薄型テレビを利用するのがポイント。HDMI規格の目玉のひとつであったCEC(Consumer Electronics Control)機能をパソコンとして世界で初めて搭載し(富士通調べ)、家電機器との連携によるかつてないユーザビリティを実現した。「パソコンならではの新機能を家電のように使いやすくし、これからのリビングを先取りした新しいパソコンのスタイルを積極的に提案していく」ことを目指した製品であった。外観はレコーダーのようだが、Windows Vistaを搭載したパソコンであり、CPUはAMD Turion X2 デュアルコアモバイルプロセッサ。もともとはモバイルPC向けに設計されたCPUであるため、高性能ながらも低電力設計が可能であり、本体の小型化と静音化にも貢献したという。また、テレビチューナーボードには、受信したテレビ番組を放送波の圧縮方式であるMPEG-2から、より圧縮率の高いH.264 AVCへとハイビジョン画質のままリアルタイム変換するトランスコード専用LSI「Dixel HDエンジン」を搭載。これにより、高画質な録画ながらも使用するハードディスク容量を削減し、400GBのハードディスクに最大で48時間の長時間録画ができるようにしていた。「一般的に圧縮率が高くなるほど動画の画質は劣化するが、Dixel HDエンジンは映像を再圧縮するとき、人間の視覚特性の研究結果にもとづく適応型の処理を行う。人の顔やゆっくりと動く物体など、画質劣化が気になりやすい部分は圧縮率を低くして高画質を維持し、それ以外の部分を大きく圧縮する。これは富士通研究所による独自のトランスコードアルゴリズム技術を用いたものであり、高画質録画と長時間録画を両立している」(富士通)2008年8月に発表した後継機では、ブルーレイディスクドライブを搭載。デジタル放送の録画コンテンツをブルーレイディスクやDVDメディアにアーカイブすることも可能にした。FMV DESKPOWER TXシリーズおよびTEOシリーズは、Windowsプラットフォームを活用しながら、リビングに設置する新たな家電としてパソコンを提案する挑戦だったともいえる。先の伊藤氏は、「私を含めて、パソコン部門にはAVマニアが多かった。AVについて理解していた社員が多かったこと、デジタル放送の広がりとともに、大画面化やレコーダーのデジタル化が進むなかで、パソコンが入っていく余地はないかということを検討していた時期でもあった」と当時を振り返る。そして、「自分の部屋に置くのであれば、パソコンの機能とともに、テレビが見られ、レコーダーの機能を含めて1台で済む。場所を取らず、コストパフォーマンスも高いというメリットがあった」と、パソコン陣営ならでの提案を進めていたことにも触れる。富士通のパソコンとAV機能、移り変わる狙いと役割だが残念ながら、デジタル放送時代の到来にあわせて、パソコンがリビングの中心に入ることはなかった。テレビとパソコンでは性能寿命に差があったことで(テレビのほうが長い)、テレパソが受け入れられなかったことや、量販店などでの商品展示がパソコン売り場に限定されていたこと、多機能ゆえに価格が上昇するといった点がその理由だ。それでもこうした経験は、その後も富士通のパソコンがAV機能を進化させていくことと、着実に結びついている。2018年11月には、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が世界初(FCCL調べ)となる新4K衛星放送チューナーを内蔵した27型液晶一体のデスクトップパソコン「ESPRIMO FH-X/C3」を発表した。2018年12月1日午前10時から日本で放送が始まった新4K衛星放送に対応した唯一のパソコンとして製品化されたモデルだ。4辺狭額縁デザインや、高輝度・広視野角の液晶パネルによって高い没入感の視聴を実現。高音質で幅広い音域を味わえるハイレゾ対応のパイオニア製2.1chスピーカーに加えて、低音を増強させるダブルパッシブラジエーター方式のサブウーファーを搭載。音が直接耳に届くようにスピーカーの角度にもこだわっている。「単に世界初を目指したのではなく、個人の時間を充実したいというニーズに対して、楽しむ空間を実現するパソコンとはなにか。ユーザーが本当に欲しているものを、満足するレベルで提供するにはどうしたらいいのか――ということを考えて製品化したのがESPRIMO FH-X/C3だ。人生100年時代を迎えると個人の時間が増える。若い人たちの間でも自分の時間を大切にしたいという流れが顕著。そうした潮流をとらえたモノづくりを進めた」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)充実した時間を過ごすためにパソコンが果たす役割を追求した結果、生まれたのが世界初の新4K衛星放送チューナー内蔵の27型デスクトップパソコンだったというわけだ。AV機能の搭載は、富士通のパソコンに流れるDNAともいえる。その狙いや役割は、40年間の歴史のなかで少しずつ変化しているといえそうだ。

大河原克行

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