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2月17日(現地時間、日本時間2月18日早朝)に投資家向け説明会「Intel Investor Meeting 2022」を開催し、同社の新しいロードマップなどに関して説明を行なった。【この記事に関する別の画像を見る】 同社の主力製品であるCPUのロードマップ更新に関しては別記事で報じている通りだが、Intelは昨年発表した新しい戦略となるIDM 2.0(より進化した統合型半導体製造モデルという意味)に関してもアップデートを行ない、RibbonFETやPowerViaを採用した次世代の製造技術「Intel 18A」の投入時期を従来の2025年から2024年後半に前倒ししたことを明らかにした。 本記事ではそうしたIntelがIntel Investor Meeting 2022で発表した製造技術関連の話題について、Intelの戦略の狙いを解説していきたい。■ 50%台前半まで落ち込むIntelの粗利益率、再び60%台を目指して成長戦略を加速 今回の投資家向けの説明会で、証券アナリスト達がかなり熱心に質問していたのがグロスマージンについてだ。日本語では売上総利益と訳されるが、もっと俗っぽい言葉で言えば「粗利益」(売上からそれを生み出すのにかかった原価を引いた利益のこと)のことになるが、その粗利益率が、今後数年は50%台の前半に留まると予測されると、Intel 上級副社長 兼 CFO(最高財務責任者) デーブ・ジンザー氏が説明したからだ。 以前のIntelはこの粗利益率が60%を超えており、それがIntelの財務の健全さの象徴だった。今回ジンザー氏が示したスライドでは2022年~2024年には51~53%のレンジで、そして2025年以降には54~58%のレンジになるという予測が示されたのだ。もちろん50%台でも製造業としてはかなり優秀な方だが、それでも以前の「エクセレント」(超優秀)というほどではなくなってきていることは否定できないだろう。 そうした中あえて予想を出したということは、Intelの経営陣がここ数年は「投資の時期」と考えていると受け取ることができる。ここ数年はファブ(半導体製造工場)を初め、様々な投資を行ない、それが軌道に乗ると考えられる2025年以降に粗利益率が再び上昇する、それがIntelの経営陣が描いているシナリオということだろう。 では、そのIntelの投資をともなう成長戦略とはなんだろうか? 昨年Intelに復帰した同社 CEOのパット・ゲルシンガー氏は「今の我々の強みを維持しながら、新しい成長市場でリーダーになることが重要だ」と述べ、現在のIntelの強みであるクライアントPC向けのCPU、データセンター向けのCPUというビジネスでの強みを維持しながら、これまでIntelが強みを発揮出来ていなかった市場でも強みを出せるような製品やサービスを提供していくことが重要だと説明した。 ゲルシンガー氏によれば、コロナ禍によりPCの重要性は以前より増しているが、それでも既にかなり大きな市場となっているPCの市場が今よりも大きく成長するとは予想できないこともあり、2021年~2025年にかけては一桁台の前半の成長が期待できるという。そして、データセンター向けの市場では2021年~2023年には一桁台後半の成長が期待でき、2026年にかけては10台半ばの数字での成長が期待できるとした。 そうしたPCやデータセンター向け市場という強みを維持するために必要な製品として、ゲルシンガー氏は「業界でベストな製品を投入しなければならない。第12世代Coreやこれから投入するSapphire Rapidsはそうした競合に勝てる製品になっており、今後も強力な製品を導入していく」と述べた。 別記事で紹介しているように、クライアントPC向けにはMeteor Lake、Arrow Lake、Lunar LakeといったCPUを2023年から1年に1製品ずつ投入していき、データセンター向けにもまもなくSapphire Rapidsを投入し、2023年にEmerald Rapidsを、2024年にGranite Rapidsと低消費電力向けとなるSierra Forestを投入し、2025年にはその後継となる製品を投入すると説明した。 そうした製品を矢継ぎ早に導入していくことで、失いつつあった技術的なリーダーシップを取り戻す、それがIntelの基本戦略になる。■ Intelにとっての成長事業はグラフィックスと自動車向け半導体 ただ、ゲルシンガー氏自身も言っているように、例えばPC市場が既に非常に大きい市場であるとはいえ、その市場規模が今後いきなり倍になることはない。従って、現在Intelが大きな市場シェアを持っているPC市場やデータセンターでのポジションは維持しつつ、新しい成長市場で成功を収めなければ、Intelが、そして市場が望むような粗利益率を再び60%台に戻すというのは夢また夢に終わってしまう。実際、Intelのこの10年は、それを何度もトライして、失敗してということの繰り返しだった。つまり、PCやデータセンター以外の有望な市場はなかなか見つからなかったということだ。 しかし、今やIntelはようやくその成長市場を見つけ、かつそこで成功を収めつつあるようだ。今回ゲルシンガー氏が今後のIntelにとって成長市場として期待できそうな市場を2つ挙げた。1つはGPUであり、もう1つが自動車向けの半導体だ。 GPUに関しては、今年のCESで開発コードネーム「Alchemist」で知られるdGPUを「Intel Arc Graphics」として発表した。発表されたのはノートPC用だが、第2四半期にはデスクトップPC用を、第3四半期にはワークステーション用を追加する。さらに2023年~2024年にはBattlemageという次世代製品を追加し、2024年以降にはその後継となるCelestialを投入する。 Celestial世代では、エンスージアストセグメントのゲーミングGPU向けと位置づけられる製品も投入される。いずれも「Intel Deep Link」と呼ばれるiGPUとdGPUが協調して動作する仕組みを利用して、iGPUとdGPUの両方を利用してエンコードするなどの機能を実現する。 また、AIの学習用や科学演算などのHPC(High Performance Computing)向けには最大で47個のダイをパッケージ上に2D/3D実装するPonte Vecchioを投入する。それにより、NVIDIAのA100などデータセンター向けのGPUに対抗することになる。 そうした製品を投入していくことで、2021年には7億ドルに過ぎなかったGPU関連の売上は2022年には10億ドルを超え、2026年の100億ドルの売上になると予想されているとゲルシンガー氏は説明した。同社の上席副社長 兼 AXG事業本部 事業本部長のラジャ・コドリ氏が行なったブレイクアウトセッションでは2026年のGPU市場のTAM(Total Addressable Market、獲得可能な最大市場規模)は1550億ドルと説明されているので、市場の約6.4%程度はIntelが獲れると予測しているということになる。 そして、Intelにとって今急速に成長しているのもう1つの市場が自動車向けの半導体で、同社が2017年に買収したイスラエルのMobileyeは急速に成長を続けており、昨年には1億ユニットの出荷を行ない、世界のトップ15の自動車メーカーのうち13メーカーで既に採用されていると説明した。自動車に急速にADAS(先進安全運転システム)の実装が進んでいるのに合わせてMobileyeの存在感は高まっているのだ。 Intelは昨年(2021年)の12月に、MobileyeをIPO(Initial Public Offering、株式の新規公開)する予定であることを明らかにしている。買収したは良いが、それがあまり活かされているとは言いがたかったIntelの他社買収の中では、飛び抜けて成功した事例になりつつある。 また、Intelは今回のIntel Investor Meeting 2022において、同社が今後提供するファウンダリサービス「IFS」(Intel Foundry Services)で、自動車グレードの半導体を生産するサービスの提供を開始していくと明らかにした。このことにより、例えば日本の自動車メーカーなどが、Intelに半導体の生産を委託して北米工場向けの半導体を生産してもらうなどの展開が考えられることになる。北米市場は日本の自動車メーカーにとって重要な市場であることは言うまでもなく、自動車向けの半導体逼迫が叫ばれるなか、この動きは日本の自動車メーカーにとっても要注目となるだろう。■ ファウンダリサービスへ投資が好影響、相乗効果で製造技術の開発は前倒しに そうしたIntelが提供するファウンダリサービス「IFS」に関してもIntelはいくつかのアップデートを行なった。まず、Intel Investor Meeting 2022に先だって、2月15日にイスラエルのファウンダリ「Tower Semiconductor」を買収したことを明らかにした。これによりTower Semiconductorが世界中に持つ半導体製造施設やノウハウなどを手に入れ、それをIFSの一部として今後提供していくことが可能になる。例えば、Tower Semiconductorは日本の子会社としてTPSCo(タワーパートナーズセミコンダクター)の過半数(51%)の株式を所有しており、旧パナソニックの半導体生産工場に由来する3つの工場を日本国内に持っている。Tower Semiconductorはアナログ回路やパワーマネージメント、イメージセンサーといったこれまでIntelが製造してこなかったような半導体の製造を受託してきたファウンダリで、IFSとは補完関係にあると言える。 そして、今回のイベントでは、まず2022年にIntel 16(従来は22nmと呼ばれていたFinFETの製造プロセスルール)でファンダリの生産をスタートし、2023年の後半にEUVを利用した製造技術であるIntel 3を活用して製造を開始する。さらに、2024年の後半にはRibbonFETとPowerViaを利用するIntel 18Aでの製造が開始されるというスケジュールになっている。 こうしたプロセスルールの導入は、以前のスケジュールよりも明らかに前倒しされており、Intel 18Aに関しては以前の説明では2025年以降とされていたのが、今回の発表では2024年の後半から製造準備が整うとされており、実際Intelがテスト生産したIntel 18AのSRAMチップのウェハが今回のイベントで公開されている。現時点ではIntel社内向けのみとなるが、Intel 4が今年の後半に、Intel 3は23年の後半に、Intel 20Aは24年の前半に製造に向けた準備が整うとされている。ゲルシンガーCEOは「5世代が4年以内に次々と登場する」と述べ、プロセスルール開発が加速していることを強調した。 こうした製造技術開発の加速は、IntelがIFSを始めたおかげだとゲルシンガー氏は強調した。「我々のIDM 2.0戦略により、IFSのお客様にとっての利便性は高まり、IFSがよりよくなることで、我々自身が利用する製造技術もよりよくなっていく。従来の我々のIDMのみのやり方では、上昇する一方の研究開発の投資に対処していくのは難しい。しかし、IFSを始めたとこで、お客様からの支払いなどによりキャッシュフローは改善し、IDMの弱点を補うことが可能になった」と述べた。 つまりIFSを始めたことが、Intel自身の半導体メーカーとしての競争力を高めることになるとし、IFSの実現に向けて様々な投資を行なっていることが、製造技術の前倒し導入につながるなどのよい影響につながっており、IFSの顧客のためだけでなく、Intelが自社の製造施設で製造する場合にも好影響を与えているのだと強調した。 そのようにして自社向けと他社向けのIFSが相乗効果で良くなっていくことで、Intelの製造技術がどんどん向上していく、これがゲルシンガー氏の戦略の肝になる。それと前出の製品ロードマップが上手くかみ合えば、かつての「強いインテル」が再びかえってくる日があるのではないだろうか。その時には前出の粗利益率が再び60%を超えるそうした日がかえってくることは間違いないだろう。 もちろんそのために重要なのは、このロードマップをやりきるという意思と実行力だ。ゲルシンガー氏を始めとしたIntel幹部の意思と手腕がこれからの数年間で問われていくことになる。
PC Watch,笠原 一輝
最終更新:Impress Watch