写真:Impress Watch
ASUSのゲーミングPCブランド「ROG(Republic of Gamers)」シリーズの新製品として、「ROG Flow Z13」が発表された。本機の特徴は、13.4型ディスプレイを搭載したタブレットPCでありながら、ディスクリートGPUとしてGeForce RTX 3050 Tiを搭載した、れっきとしたWindows PCである点だ。【この記事に関する別の画像を見る】 本機と同じ「ROG Flow」シリーズの製品では、昨年2月に「ROG Flow X13」が発売されている。こちらも軽量薄型でディスクリートGPUを搭載したマシンだが、360度回転ヒンジを備えた2in1スタイル。対して「ROG Flow Z13」はキーボードと分離が可能なタブレットPCであり、似て非なる製品となっている。 筆者は最初、2in1からタブレットPCになったことで「より小型化が進んだのだろうな」という程度の想像をしていた。しかし実際に試用した後の印象は、まったく違う。モバイルゲーミングPCに付きまとう排熱処理に対して1つの解法が示され、異次元の進化を遂げた製品だ。■ 最新型Core i9など高性能PCに引けを取らない豪華な構成 「ROG Flow Z13」にはいくつかのモデルがある。今回お借りした試用機のスペックは下記の通り。 CPUは6-Pコア+8-Eコアで20スレッドのCore i9-12900H、GPUはGeForce RTX 3050 Tiという構成。CPUは最新かつ強力で、GPUもエントリークラスながらリアルタイムレイトレーシング対応のものだ。 さらにメインメモリはDDR5の16GB、ストレージはM.2 NVMe接続の1TB SSDと、ハイスペックノートPCに引けを取らない豪華な構成だ。CPUはほかにCore i7-12700とCore i5-12500H、M.2 SSDは512GBを搭載したモデルもある。 ディスプレイは13.4型で、16:10のWUXGA(1,920×1,200ドット)のタッチパネルとなる。リフレッシュレートは120Hzで、輝度500cd/平方m、sRGB比100%、Pantone認証、Dolby Visionなど品質にもこだわる。表面はGorilla Glass 5を採用。ディスプレイは別モデルとして、16:10の4K(3,840×2,400ドット)でリフレッシュレート60Hzのものも用意される。 着脱可能で液晶部のカバーにもなる薄型キーボードも付属。こちらは厚さ5.6mm、重量は約340gとなっており、本体と合わせると単純計算で厚さ20.1mm、重量は約1.52kgとなる。これでもゲーミングノートPCとしては十分小型かつ軽量だ。 充電はUSB PDの100W入力に対応し、Thunderbolt 4とUSB 3.1 Type-Cのどちらからでも充電可能。100W出力対応のACアダプタも付属する。ゲーミングPCは消費電力が大きいが、ほかの機器と流用が効くUSB PDによる充電でまかなえる消費電力に抑えた点も本機の魅力と言える。 ROG XG Mobileインターフェイスを搭載しており、ASUSの独自GPUボックス「XG Mobile」を使用できる。今回は本機と合わせてGeForce RTX 3080を搭載した「ROG XG Mobile GC31」もお借りしているので、後述の検証にも加えていく。こちらは別途電源の接続が必要で、グラフィックスの消費電力は最大150Wとされている。さらにPCへ100Wの給電も可能だ。 「ROG XG Mobile GC31」は対応機器とPCI-Express 3.0×8で接続され、グラフィックスを高速化するのに加え、Gigabit Ethernet、HDMI、DisplayPort、USB 3.0×4の各ポートが利用できる。価格はASUS Storeにて18万8,800円となっている。 このほか背面の799万画素カメラや音量ボタンなど、タブレットPCならではの機構も見える。ゲーミング向けではない一般的なタブレットPCとして見ると、13.4型で1.18kgというのはかなり大型と言えるが、タブレットPCとしての運用も捨てていないわけだ。■ タブレットPCとしての完成度の高さも光る 続いて実機を見ていく。CNCアルミニウムを採用した筐体は、押してもほとんどへこまず、高密度でがっしりした質感だ。Gorilla Glass 5を採用したディスプレイが一体化されていることもあり、筐体のたわみなどはまったく感じられない。 全体の色味はマットブラックで統一されているが、背面には自己主張のあるデザインも多い。基板の一部が覗き見える透明な窓があり、LEDライティングで光るワンポイントとなっている。さらに冷却ファンのスリットで数字が描かれているなど、近未来的で遊び心のある「ROG」シリーズらしいデザインとなっている。 タブレットPCということで、ディスプレイはタッチ対応。表面はガラスなので光沢はあるが、照明などの反射はかなり薄暗く低減されている。額縁部分もかなり狭く、タブレット端末として見ると表示領域は極めて広い。視野角も広く、色味も鮮やかで、明るさも100%にするとまぶしすぎるほど。また本体の傾きに合わせて画面が自動回転する。 120Hzのリフレッシュレートのおかげで、スクロールも滑らか。応答速度はスペックデータがなく不明だが、文字のスクロールでも特ににじみが感じられることもなく、そこそこのゲーミングディスプレイ程度の応答速度はあるように見える。 本体裏には開閉して使うスタンドが組み込まれている。開閉角度は約160度あり、ディスプレイの設置角度をほぼ自由に設定できる。好きな角度できっちり止まり、安定感も十分だ。■ 充実したインターフェイス周り キーボードは取り外しが可能な薄型キーボードを採用。アイソレーションタイプで、薄型ながらもしっかりしたクリック感がある。ストロークは公称値で1.5mm。Nキーロールオーバーにも対応しており、ゲームでの利用も安心だ。 タイピング時のベースのたわみもわずかで、ゲームプレイで力が入りがちなキー入力でも特に気になることはない。キー配置もオーソドックスで、不満点の少ない使い勝手のいいキーボードだ。キーボードバックライトも搭載し、背面のLEDとともに光り方をカスタマイズできる。 キーボード下部にはタッチパッドも搭載。タッチパネルも併用できるので、好みのスタイルで利用可能だ。 電源ボタンは本体右側面の上部にあり、電源ボタン部分はWindows Hello対応の指紋センサーも兼ねている。センサーの精度は極めて高く、設定した指(右人差し指が使いやすい)を軽く触れるだけでほぼ確実に認証できる。また電源ボタンの下には音量ボタンがある。PCとしては珍しいが、タブレットPCと思うと重宝する位置にある。 端子類は右側面にUSB Type-Aとヘッドセット端子、左側面にThunderbolt 4とROG XG Mobileインターフェイスがある。ROG XG MobileインターフェイスはUSB Type-C端子を内包しており、「ROG XG Mobile」を使わない時には独立したUSB Type-C端子として活用できる。充電端子はこちらを使い、Thunderbolt 4はそのほかの機器を接続するのに使うと便利だ。 端子類はこれだけで、ノートPCとして見るとかなり少ない。ただThunderbolt 4で映像出力もできるし、一般的な使い方で困ることはそうないようにも思う。なお背面のスタンド裏にはmicroSDXCスロットもある。着脱がやや難しい独特な位置にあるが、データのやり取りに使える。 スピーカーは本体下部の左右に1基ずつのステレオ構成。音質はとてもクリアで、1つ1つの音が際立って聞こえる。サイズ的に低音が出ていないのは確かだが、中高音の自然な聞こえは抜群で、ちょっとした音楽鑑賞に使っていいと思えるほど。ASUSのゲーミングPCは音質の高さも特徴で、本機もそれらに漏れず非常に品質が高い。 マイクは前面カメラの左右に3Dアレイマイクを搭載。ソフトウェアで指向性のカスタマイズか、AIノイズキャンセリング機能のどちらかを選んで使える。特にAIノイズキャンセリングは、入力だけでなく出力にも対応しており、Web会議などで重宝する。 外部デバイスとしてスタイラスペンも使用可能。「ASUS PEN SA201H」を使用すると、4,096段階の筆圧感知に対応でき、手書きメモだけでなくデザインなどのクリエイティブな用途にも活用できる。またWindows PCでBluetooth 5.2も搭載しているので、各種ゲームパッドの接続も可能だ。■ デュアルファン搭載でアイドル時は無音。タブレットだからこそ実現した優れた熱処理 そして本機で最も注目すべき点が排熱処理。背面左右にある2つのファンから吸気、上面排気という分かりやすいエアフローになっている。アイドル時にはファンの回転がほぼ停止し、無音に近い状態になる。軽く負荷をかけるとファンは回るが、かろうじて回っているのが分かる程度で、オフィスユース程度であれば騒音が気になることはまずない。 ゲームなどで高負荷になるとファンの回転数が上がるが、最大まで上げてもホワイトノイズっぽい音が少し聞こえてくる程度で、騒音レベルはかなり低い。一般的なゲーミングノートPCと比較しても最も静かな部類で、ゲームの音が出てしまえばほとんど気にならない。 専用アプリ「Armoury Crate」のデータでは、「Turbo」モードでもファンの回転数が最高で6,500rpm、騒音レベルは35dBA程度となっている。 冷却システム自体も、液体金属グリスやベイパーチャンバー、アークフローファンなどにより、薄いタブレットPCの筐体においてもうまく排熱できるよう設計されている。小型・薄型の筐体でもこだわりの冷却システムが効果を発揮している。 ここまでは一般的なPCとしての冷却機構の評価だが、ゲーミングPCとして見た時には劇的な変化がある。ゲーミングPCは高負荷時の排熱処理が課題で、うまく熱を逃がさないとキーボード付近が熱くなり、ゲームプレイに支障をきたす。 しかし高性能なCPUやGPUを搭載するほど発熱は増え、筐体を小型化するほど排熱処理は難しくなる。ゆえにモバイルゲーミングPCで高い性能と快適なゲームプレイ環境を両立するのは極めて難しい。 ところが本機の場合、熱源がディスプレイ側にあるため、キーボード側への熱伝導は考慮する必要がない。熱は上面から逃げていくため、使用者が気になることもない。強いて言えば上面からの排気の音が使用者に聞こえやすいというデメリットはあるが、本機はノイズ自体が小さいため、あまり気にならない。 つまり、ディスプレイ側にCPUやGPUなどの熱源が搭載されたタブレットPCになったおかげで、キーボードへの熱伝導という最も対応が困難な問題が、あっさりと、かつ完璧に解決している。 代わりにディスプレイへの熱伝導が発生するため、タブレットPCとして使う場合は本体部やディスプレイ部での熱が気になる。だが、キーボードとマウスによるノートPCスタイルで利用する限りは問題にならない。ゲーミングPCをタブレットPCの形にすることで、最高のプレイ感が得られるモバイルゲーミング環境が実現してしまうという、何とも奇妙な現象なのである。 これは「タブレットPCの形にすればいいだけ」という簡単な話ではない。そもそも1.18kgの小型・軽量な筐体にディスクリートGPUを含む高性能なパーツを入れ込むこと自体が難しい。ASUSの設計力の高さが本製品に結実した結果と言える。 ACアダプタは先述の通り100WのUSB PD。キーボード付きの本体より厚いアダプタ部と、それに連なる太いケーブルがあり、USB PD接続で手軽に充電できるというイメージではない。ほかのUSB PD対応機器にも充電できるという点だけはメリットだが、タブレットPCと組み合わせるならもう少し取り回しが良くなってほしい。■ フルHDで快適なゲーム環境を実現。用途に合わせたモード切替も重要 続いて実機でパフォーマンスをチェックする。ベンチマークテストに利用したものは以下の通り。・PCMark 10 v2.1.2532・3DMark v2.22.7336・VRMark v1.3.2020・PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator・ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク・FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク・Cinebench R23・CrystalDiskMark 8.0.4 本機は専用ソフト「Armoury Crate」で動作モードを設定できる。標準は「パフォーマンス」で、ほかに「Turbo」「サイレント」の計3種類があり、手動設定も用意されている。今回はプリセットされた3つの動作モードで「PCMark 10 v2.1.2532」に限りテストを実施。バッテリ持続時間に関しては、非充電時に自動で「サイレント」に切り替わったため、こちらの設定でテストした。 また「ROG XG Mobile GC31」を接続した際のテストはグラフィックスのパフォーマンスへの影響が大きいため、ゲーム系のベンチマークテストなども一通り実施した。 「PCMark 10」の詳細データを見ると、実行中のCPUの最高温度が「パフォーマンス」では90℃前後だったのに対し、「Turbo」では80度前後、「サイレント」では60度前後となっていた。「Turbo」ではファンの回転数を上げて冷却性能を高めることで高い性能を維持し、「サイレント」ではファンの回転数を下げるとともにCPUクロックも最高4.3GHz程度まで抑えて発熱自体を減らしている。 その上でCPU性能を見ると、シングルスレッドではデスクトップPC並の非常に高い性能を発揮している。対してマルチスレッドでは、2スレッドでも4.4GHz程度に落ち、最大スレッドでは2.7GHz程度まで落ちる。より高いマルチスレッド処理が必要な場面では、動作モードを「Turbo」にすることで冷却性能が上がり、パフォーマンスを上げられることは覚えておきたい。 グラフィックス性能の方は、「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」の最高画質で標準的な動作が見込めるギリギリのライン。本機のWUXGA解像度なら、普通に遊べるゲームは多いだろう。ただし120Hzの高リフレッシュレートを活かそうと思うと、ある程度は画質を落とす必要がありそうだ。 また「3DMark」の「Port Royal」は無事に実行でき、GeForce RTXシリーズのGPUとしてリアルタイムレイトレーシングが利用可能なことは確認できる。ただパフォーマンスは低く、平均で5fps程度。最新のAAAタイトルでリアルタイムレイトレーシングが満足に動かせるとは思わない方がいい。 バッテリ持続時間は、オフィスユースで約4時間半、ゲーミングだと約1時間。「サイレント」の設定なのでパフォーマンスは落ちているが、オフィスユースで持ち運んで使う程度なら、処理能力的にもバッテリ的にも十分対応できる。ゲームに関してはやはり充電状態で使う前提で考える方がいいだろう。 ストレージはMicron製SSD「2450」シリーズが使われていた。PCI Express 4.0対応のメインストリーム向けモデルで、シーケンシャルリードは約3.4GB/s。M.2スロットには本体背面のスタンド部分の裏からアクセス可能で、ネジを外して実物を確認してみたところ、全長の短いM.2 2230タイプが採用されていた。将来的な交換にも対応できそうだ。 続いて実際のゲームのテストとして、「Fortnite」のバトルロイヤル1戦と、「Apex Legends」のチュートリアル1周のフレームレートを、NVIDIA FrameViewで計測した。解像度はディスプレイと同じ1,920×1,200ドット、画質はいずれも最高設定とした。ただし「Apex Legends」のテクスチャストリーミング割り当ての項目のみ、本機のVRAM搭載量に合わせて2段階下げて「高(VRAM:4GB)」とした。 またこちらでも「ROG XG Mobile GC31」のテストを実施した。画質設定はすべて最高としている。 「Fortnite」では平均で50fpsを超えている。人の多い場面で若干のフレームレート低下を感じるが、プレイ感を損なうほどフレームレートが落ちる感覚はなかった。画質を調整すればまだまだフレームレートを稼ぐのは可能だ。 「Apex Legends」では平均で90fps近く、下位99%でも60fps弱と、かなり高いフレームレートが確認できた。これがタブレットPCだというのだから、立派な性能と言っていいだろう。 「ROG XG Mobile GC31」を利用した場合では、「Fortnite」でほぼ60fps以上を維持、「Apex Legends」では100fpsを安定して超えていた。本機の高リフレッシュレートを活かせる性能を発揮できている。■ モバイルゲーミングPCの新たな1ページを開く 本機の表向きの注目点は、GeForce RTX 3050 Tiを搭載したゲーミングPCがタブレットPC筐体に入ったことだ。ゲーミングPCをタブレットPCにしてしまおうという発想自体がなかなかないし、高性能なWindowsタブレットPCのタッチ操作で遊びたいゲームがどれだけあるかは少々疑問。一昔前なら「艦これタブレット」として重宝したかもしれないが、本機はさすがにオーバースペックだ。 もちろん本機の用途はゲームに縛られない。CPU内蔵グラフィックスを上回るグラフィックス性能を、WindowsタブレットPCとして活用できる場面は、ビジネスなどでもあり得るだろう。タッチパネルと組み合わせて使い道は意外とありそうな気がする。 とは言え、本機の最大の魅力は、やはりモバイルゲーミングPCとしてだと筆者は考える。高性能と小型化が求められるモバイルゲーミングPCにおいて、トレードオフの存在だった排熱問題が、タブレットPCという形でキーボードをセパレートにすることで解決してしまうという、コロンブスの卵のごとき存在だ。出張などの出先でもそれなりの性能でゲームを遊びたい人にとって、これほど重宝するPCはほかにないと断言できる。 もっとも、ここからパフォーマンスを上げていくのはそう簡単ではないだろう。筐体を巨大化すると、モバイルゲーミングPCとしての魅力が薄れる。例え熱処理問題から解放されても、高性能と小型化の両立という点からは逃げられない。 それでも、本機がモバイルゲーミングPCの新たな1ページを開いてくれたと、大げさではなく心から思う。この先、ASUSだけでなく他社からもゲーミングタブレットPCが続々と発売される未来があることを期待したいし、そのためにも本機が持つ意外な魅力がより多くの人に伝わることを願う。
PC Watch,石田 賀津男
最終更新:Impress Watch