「日本中どこにも地震に対する安全な場所はない」 政府・地震調査委の平田直委員長インタビュー

沿って : Ilikephone / On : 27/08/2022

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今後30年間に震度5強以上の揺れに見舞われる確率

「日本中どこにも地震に対する安全な場所はない」 政府・地震調査委の平田直委員長インタビュー

<ニュースの教科書>日本は地震が多いとは分かっていても、日々の生活の中で、つい、忘れたり、自分は大丈夫と思いがちではないでしょうか。国は地震の調査研究を集約して、その結果を国民に知らせる地震調査研究推進本部(地震本部)を設置し、「地震動予測地図」などをまとめ、さまざまな情報を発信しています。「日本中どこにも地震に対する安全な場所はありません」という、同本部・地震調査委員会の平田直委員長に、この地図や、東北、首都圏、南海トラフなどの状況についても聞いてみました。「3・11」を前に、あらためて地震のことを考えてみましょう。【写真】政府・地震調査研究推進本部、地震調査委員会の平田直委員長(東京大学名誉教授)-地震本部が発表している地震動予測地図や「活断層及び海溝型地震の長期評価」について教えてください平田さん 1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起きた後、国は地震本部をつくりました。国として一元的に地震の調査研究をし、結果を国民に知らせるのがミッションです。それ以前は、そういう仕組みがなかった。例えば、95年以前には、科学的根拠が全くないのに、関西には地震がないという風聞がありました。地震学者は関西に地震が繰り返しあったことはよく知っていたが、東海地震のことばかり取り上げられていた。地震学の知見がきちんと社会に伝わってなかったことが、非常に重要な問題だと認識されました。地震本部は、10年かけて地震が起きやすいか、揺れやすいかの両方を考慮して、科学的データに基づき、地図をつくりました(05年から、更新中)。日本中の各地点ごとに、どんな確率でどの程度揺れるかを示したものですが、この地図で最も重要なことは、日本中どこにも揺れない場所はないということです。-今後30年間に震度5強以上、または震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(平均ケース、全地震)をみると、特に太平洋岸はほとんどが真っ赤ですね平田さん 太平洋側以外も揺れない場所はありません。注意すべきことは、ある地点が揺れる確率と、地震が発生する確率は違うということです。近いところでたくさん地震が起きれば、揺れる確率が高くなる。もう1つ重要なことは、地盤が軟らかいと揺れやすいということ。例えば、昨年10月7日に都内で10年ぶりに震度5強がありました。この地震は千葉県北西部で起きましたが、一番揺れたのが東京都足立区と埼玉県の川口市、宮代町。理由は、そこが揺れやすい場所だったからです。防災上一番重要な地図をつくるために、各地の地震発生の長期評価をしています。日本の地震の多くは海で起きていて、陸より100倍くらい起きている。ただ陸でもそれなりに起きている。例えば阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震はマグニチュード(M)7・3で、非常に大きな被害でした。2016年4月の熊本地震もM7・3で多くの方が亡くなった。一方、東北の太平洋沖ではM7くらいの地震はたびたび起きていて、例えば昨年も福島県沖と宮城県沖で、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災を引き起こした巨大地震)の余震でM7クラスが起きました。M7くらいの地震は世界ではまれですが、日本とその周辺の海域では1年に1~2回は起きています。人が住んでいるところの近くでM7くらいの地震が起きれば大きな被害が出ます。この地図で一番濃いところは、30年確率で26%以上を示しています。少ないと思うかもしれませんが、例えば、30年以内に交通事故で負傷する確率は12%、火事にあう確率は0・94%というデータもあります。30年は自分が生きているうちに1回くらいは発生するかもしれないことで、具体的に対策をとらなければいけない、高い確率です。日本中どこにも、地震に対する安全な場所はなく、さらに都市ができている平地はより揺れやすいのです。-今年1月に発表された活断層と海溝型の長期評価では、主要活断層114で、30年以内の地震発生確率が高いとしたSランクのうち、阪神・淡路大震災直前の発生確率と同等以上の値が出ている活断層が10くらいあります。39の領域や地震に分類した海溝型では、発生確率が最も高い3ランクが22もあります平田さん 約2000の活断層のうち大きな地震が起きる可能性が高い場所を選び、過去の活動など詳細な調査をして確率を計算しました。近年は1つ1つの活断層ではなく、活断層の地域評価もやっています。一番最初が九州地方で、熊本地震の前に評価されました。熊本地震は布田川断層帯で起きましたが、確率は30年で1%に満たなかった。しかし、九州中部の評価では30年以内に20%くらいの確率でM7程度が起きるという評価が出ていたんです。1個1個の活断層で起きる確率は低くても、活断層があること自体が、その地域で地震が起きやすいことを示しています。地域評価は九州、四国、中国、関東を出し、今は近畿をやっています。-1月に日向灘で地震が発生し、大分・宮崎で震度5強を観測。南海トラフ、東北、首都圏などの大地震も心配されています平田さん 地震は、地球を覆っている厚さ100キロくらいの岩盤が水平方向に動くことによって起きます。例えば、地球で一番大きな太平洋プレートは1年間に10センチくらいの速さで、西のアジア大陸の方に動いている。日向灘で起きた地震は、九州の下に1年間に5センチくらいの速さで沈み込んでいるフィリピン海プレートの内部で起きた地震。南海トラフや2011年の東北地方太平洋沖地震は、海のプレートが陸側に沈み込んでいった時に海のプレートと陸のプレートの境界部分で起きるものです。東北地方太平洋沖地震はM9・0で、観測された中では世界で4番目の大きさでした。南海トラフでも同じ程度の地震が起きる。過去に起きたこともあるから、将来も起きると考えています。30年以内にM8~9の地震が起きる確率は70~80%と非常に高いです。北海道の太平洋沖=日本海溝、千島海溝でも17世紀にM8・8くらいの地震が起きていて、その後1回も起きていないので、30年以内の発生確率は7~40%と大変高く評価しています。東北で起きたことは、北海道や西日本の太平洋沖でも起きるというのが、非常に大事なメッセージです。東北では、M9の地震はあと500年くらいは起きないと思います。500年とか600年に1回くらい起きる地震なのでしばらく起きない。ただし、M9の地震の後にはたくさんの余震が起きる。M8や7だって余震。M7クラスはたくさん起きている。東北ではM8くらいまでの余震が起きても何も不思議ではありません。M9の地震が起きると、500年の間の最初の20年は「直後」なんです。東北の地震は今でも影響は残っています。国土地理院のGNSS(全球測位衛星システム)の観測によると、東北地方は11年3月11日の前は東西に1年間に1~2センチ縮んでいたんですが、地震の時に牡鹿半島が東に約5・4メートル動いた。つまり太平洋プレートが西の方にじわじわ押し寄せて、列島は東西に縮んでいて、それが500年分たまって、一気に跳ね返った。これが東北地方太平洋沖地震の本質です。驚くことに、今でも東北地方は東西に伸び続けている。いずれ東西に縮む状態に戻りますが、まだ戻っていない。東日本はまだ不安定な状態。これが非常に重要な事実です。-大きなエネルギーが解放されても、安心はできないということですね平田さん 地震が起きると、その場所ではエネルギーは解放されますが、周辺に影響を及ぼします。太平洋プレート全体からみれば、そのごく一部で解放されたので、その周辺、北海道や関東、東北地方の沖合ではむしろ地震が起きやすくなっていると考えるべきです。南海トラフや北海道沖合の日本海溝、千島海溝の地震はそもそも起きやすい場所でまだ起きていないから、注意しなければいけないと思ってもらったほうがいいです。-日本人みんなが情報を正しく理解し、日ごろから心構えを持ち、備えておくことが大切ですね平田さん 自分が住んでいる場所の自然と社会の成り立ち、災いと恵みをきちんと理解した上でリスクを評価することが大切です。その基準になるものを、地震本部が毎年お示ししています。【聞き手・久保勇人】◆平田直(ひらた・なおし) 東京大学地震研究所所長、同研究所地震予知研究センター長などを歴任。現在は、防災科学技術研究所参与(首都圏レジリエンス研究推進センター長)、東京大学名誉教授。政府・地震調査研究推進本部の地震調査委員会委員長のほか、東京都防災会議地震部会部会長なども務めている。東京都出身。<地域の活断層等の長期評価>(30年以内にM6・8以上の地震が発生する確率)【九州】▼北部7~13%▼中部17~27%▼南部7~18% ■全域30~42%【四国】9~15%【中国】▼北部40%▼東部2~3%▼西部14~20% ■全域50%【関東】▼東北日本弧南方延長4~5%▼信濃褶曲帯2~3%▼関東山地-関東平野1~3%▼伊豆-小笠原弧の衝突プレート沈み込み帯15~20%▼伊豆-小笠原弧2~3%▼糸魚川-静岡構造線周辺30~40% ■全域50~60%(※ほかの地域は順次予定)■震度別に作成「全国地震動予測地図」「全国地震動予測地図(確率論的地震動予測地図、2020年版)」について、地震調査研究推進本部(地震本部)は「現時点において考慮し得る全ての地震の位置・規模・確率に基づき、各地点がどの程度の確率でどの程度揺れるのかをまとめて計算し、その分布を示す」と説明しています。地図は「今後30年間に震度●以上の揺れに見舞われる確率(全地震)」として5弱以上、5強以上、6弱以上、6強以上の震度別に作成。ほかに活断層などの浅い地震、海溝型地震のパターンや「今後30年間にその値以上の揺れに見舞われる確率が●%となる震度」などもあります。今後30年間に震度●以上の揺れに見舞われる確率は、0・1%、3%、6%と示され、最も確率が高い(色が濃い)のは26%以上。この確率はごく大まかにはそれぞれ約3万年、約1000年、約500年、約100年に1回程度、震度●以上の揺れが起こりうることを意味しています。今年は1月13日に発表された「活断層及び海溝型地震の長期評価」は、主要な活断層で発生する地震や海溝型地震を対象に、規模や一定期間内に発生する確率を予測したものです。活断層で起きる地震は主要な114の活断層を対象に、30年以内の発生確率が3%以上をS、0・1~3%未満をA、0・1%未満をZ、不明をXとランク分けしています。事務局の担当者によると、活断層の地震は発生間隔が数千年程度と長いため、30年程度の間の発生確率値は大きな値とはならず、海溝型に比べて低く安心ととらえられる恐れがあるため、ランク分けしたそうです。現在、Sランクは全国に31あります。海溝型地震は、30年以内の地震発生確率がそれぞれ26%以上を3、3~26%未満を2、3%未満を1、不明をXとランク分けしています。領域または地震で39に分類し、3ランクは22です。また活断層、海溝型ともに各地点で地震後経過率を出してあります。「例えば最後に発生したのが1000年前で、平均活動間隔が1000年とすれば、経過率は1。1に近づくと満期に近づいている意味合いになり、ひっ迫性という観点で指標の1つになります」(担当者)という。阪神・淡路大震災直前の地震発生確率は0・02~8%、経過率は0・5~1・2。東日本大震災直前の発生確率は30年以内で10~20%、経過率は0・83~1。熊本地震直前の発生確率は30年以内でほぼ0~0・9%、経過率は0・08~0・9でした。地震本部(事務局は文科省)には、関係機関の職員及び学識経験者から構成される政策委員会と地震調査委員会が設置。調査委員会の下には長期評価部会、強震動評価部会、津波評価部会などが置かれ、長期評価部会の下には活断層分科会や海溝型分科会などがあります。これらのデータは地震本部HPで見ることができます。また防災科学技術研究所の地震ハザードステーション(J-SHIS)では、住所によって地図を拡大し、詳しい情報を確認することができます。★震度5強 物につかまらないと歩くことが難しい。棚の食器や本で落ちるものが多い。固定していない家具が倒れることがある。補強されていないブロック塀が倒れることがある。★震度6弱 立っていることが困難になる。固定していない家具の大半が移動し倒れるものもある。ドアが開かなくなることがある。壁のタイルや窓ガラスが破損、落下することがある。耐震性の低い木造建物は瓦が落下したり建物が傾いたりすることがある。倒れるものもある。(気象庁HPより)

最終更新:日刊スポーツ