昨年、GoogleやMicrosoftに続いてFacebook やAmazonがクラウドゲーム市場に参入した。通信技術の進化やゲームプレイ人口の増加により、クラウドゲームに参入する企業が増えている。動画配信サービスを提供するNetflixも2022年頃にはゲーム市場に参入する可能性があり、今後もその動向に注目が必要だ。
それぞれの企業がサービスを充実させようとしているが、Microsoftは自社スタジオ制作のオリジナルタイトルを提供することで他サービスとの差別化を図っている。同様にStadiaのゲームスタジオでオリジナルタイトルを制作するとしていたGoogleは、2021年2月にロサンゼルスとモントリオールに位置する自社のゲーム制作スタジオを閉鎖し、オリジナルゲームを開発するという戦略を大きく変更した。
クラウドゲーム市場は拡大が期待されながらも、いまだに大きな市場にはなっていない。本稿ではゲーム市場全体の動きやGoogle、Microsoft等がクラウドゲームを活用して目指すビジネスについて解説し、新規参入が相次ぐクラウドゲーム市場の今後の動きについて考察する。
2020年のゲーム市場
新型コロナウイルスの影響による巣ごもり消費の拡大はゲームコンテンツ市場にも大きく影響を与えた。2020年のゲーム市場を支配したのは間違いなく任天堂であり、2020年3月に任天堂から発売された「あつまれ どうぶつの森」は発売当初から爆発的な売れ行きを記録し、年間販売本数は900万本を超えると推計されている。それに伴い、Switchの販売台数も伸びた。
2020年11月にはPlayStaionとXboxの新機種にあたる「PlayStation 5」と「Xbox Series X/S」が発売されたが、機器の供給不足に陥ったため、十分な台数を販売することができず、現在も品薄状態が続いている。
株式会社角川アスキー総合研究所の「ファミ通ゲーム白書2021」によると、2020年の世界のゲームコンテンツ市場規模は前年比約131.6%の20兆6,417億円と推計されている(図1)。特にアジアや北米での成長が著しく、北米ではPCゲーム市場が家庭用ゲーム市場を上回る成長率を記録している。
【図1】世界の地域別ゲームコンテンツ市場(出典:角川アスキー総合研究所『ファミ通ゲーム白書2021』(2021年7月))
同様に国内のゲーム市場規模も成長しており、2020年に初めて2兆円を突破した。そのうち、オンラインプラットフォーム市場が1兆3,164億円となっており、国内のゲーム市場の大半を占めている。また、2020年の国内クラウドゲーム市場規模は15.3億円と推計され、わずかに増加している(図2)。2024年には137億円を超えると推計されているが、本格的なクラウドゲーム市場の立ち上がりにはまだ時間がかかると見られている。
【図2】国内クラウドゲーム市場規模推移(出典:角川アスキー総合研究所『ファミ通ゲーム白書2021』(2021年7月))
インディーゲームの躍進
近年のゲーム市場の注目すべき動きとしては、インディーゲームの躍進があげられる。2020年にリリースされた『Fall Guys』や『Among Us』がブレイクしたのは記憶に新しい。ゲームエンジンの進化やライブラリの共通化、ゲームストアのオープン化、決済プロセスの進化などがこれを後押ししているとされる。また、以前はコンテンツのプロモーションにもそれなりの資金が必要であったが、昨今の動画配信サービスの台頭により、プロモーションも比較的簡単かつ安価に行えるようになっている。最近増えているプロモーション手法が人気のあるストリーマーにゲームを先行プレイしてもらい、その様子をライブ配信させるというものだ。人気ストリーマーの中には1,000万人を超えるチャンネル登録者を保有する者もいるため、状況次第でTV広告を打つよりも効果的に宣伝することが可能だ。今後のゲームのプロモーションでは、人気のストリーマーを集めることや宣伝するゲームに合ったストリーマーを選ぶことなどが重要になりそうだ。また、クラウドゲームの普及はゲームの販路を増やすという点でも、インディーゲームの更なる躍進につながるのではないだろうか。
ポータブルゲーミングPC「Steam Deck」の開発
これまでゲームはコンソールやPCでプレイするものが主流だったが、上述の『Among Us』などに見られるように、近年は持ち運びができるモバイル端末でプレイするゲームが増えている。
大手デジタルゲームストアSteamを運営するValveは2021年7月にポータブルゲーミングPC「Steam Deck」を開発していることを発表した。これにより、ユーザーはPCゲームを、場所に関わらず手軽に遊ぶことができるようになる。2021年12月に欧米(米国、カナダ、EU諸国、英国)で、その他の地域では2022年に発売開始予定だ。価格は64GBモデル(eMMC)が399ドル、256GBモデル(NVMe SSD)が529ドル、512GBモデル(NVMe SSD)が649ドルとされている。OSにはLinux系の自社製OS「SteamOS」を採用しており、既にSteam上にあるSteamOS用のLinux向けゲームに対応していることに加えて、Windows向けゲームにはValveが開発するエミュレーターを通じて対応する予定だ。ユーザー自身のSteamアカウントと同期することで、PCのSteam上で所有するゲームをSteam Deck上でプレイすることができる。
また、Steam Deckではクラウドゲームサービスの利用もできる。MicrosoftのXbox事業責任者のフィルスペンサー氏はSteam DeckでMicrosoftのクラウドゲームサービスが快適に動作することを公表しており、これがウェブブラウザとアプリのどちらを使用してのことかは不明だが、いずれかの方法によりMicrosoftのクラウドゲームサービスもSteam Deckで動作するということになる。
【図3】Steam Deck(出典:Steam)
Steam Deckに象徴されるように、これまでPCやコンソールで遊ぶものだったハイクオリティなゲームをモバイル端末で遊ぶ流れは加速しており、今後、コンソールやプラットフォーム提供事業者が競争に勝つためには、スマートフォンでモバイルゲームをプレイするユーザーをSteam Deckのようなモバイル端末やクラウドゲームサービスに取り込んでいくことが必要となるだろう。
クラウドゲーム普及の障壁となるApp Storeにおけるクラウドゲームアプリの規制
2020年にクラウドゲーム市場の発展を妨げる出来事があった。AppleがApp Store上で、クラウドゲームアプリを配信することに対して規制をかけたのだ。2020年9月にAppleはApp Store Reviewガイドラインを改訂し、「Streaming games」の項目を追加した。これは当時サービスを開始していたStadiaやGeForce Now、Microsoftのクラウドゲームサービスに対する規制となっている。AppleはStreaming gamesに記載されるすべてのガイドラインを遵守する限りにおいて、App Storeにおいて、クラウドゲームアプリの提供を認めるとしてた。
上記ガイドラインの内容は2点ある。1点目は提供されるすべてのクラウドゲームは個別のアプリとしてApp Storeに提出され、アップデートなども個別に提出される必要があるということだ。また、それぞれのクラウドゲームアプリは個別のApp Store製品ページを準備して、検索やランキング、レビュー・評価の対象にできるようにする必要がある。2点目は、カタログアプリとして多数のクラウドゲームを一つのアプリ上で提供する場合においても、上記と同様に個別のゲームアプリページを準備し、カタログページからそれぞれのアプリへリンクさせる必要がある。また、サブスクリプション費用の支払いには「Appleでサインインする」「App内課金を使用する」オプションを提供しなければならない。
Netflixでドラマや映画を視聴する時のように、一つのカタログアプリの上で即座に目的のゲームを起動できることが強みの一つとなるクラウドゲームだが、App Storeの規制により、App Store上でのクラウドゲームアプリの提供には制約が生じることとなった。これらのガイドラインを回避するために、MicrosoftやGoogle、NVIDIAなどのクラウドゲームプラットフォーマーはiOS向けにはApp Store上でのアプリの提供を諦め、ウェブブラウザを通して、クラウドゲームサービスを提供している。
このようにゲーム市場における様々な動きに伴い、クラウドゲーム市場を取り巻く環境も変動を続けている。以降では各クラウドゲームサービスの2020、21年の動向について解説する。
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※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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