一般財団法人 ジェームズダイソン財団( https://www.jamesdysonfoundation.jp/ )は、次世代のエンジニアやデザイナー支援・育成を目的に、同財団が主催する国際エンジニアリングアワード、James Dyson Award (以下、JDA) 2021の、国際最優秀賞、昨年より新設したサステナビリティ賞、そしてメディカル賞、3つのグローバル賞受賞作品を発表しました。これら3作品は、10月に発表した国際TOP20の中から、ダイソンの創業者兼チーフエンジニアの、ジェームズ ダイソン自身が選出し決定しました。15年以上の歴史をもつJames Dyson Awardはこれまでに、世界28の国や地域の若きエンジニアや科学者たちが手掛ける、250以上もの前途有望な発明作品に、およそ100万ポンド(約1億3,700万円)*¹の賞金を授与しています。2,000以上もの応募作品が世界中から寄せられた今年、ジェームズ ダイソンは、初めて3つのグローバル受賞作品を選出しました。国際最優秀賞を受賞した作品には、今後のさらなる研究開発や発展の支援を目的に、30,000ポンド(約411万円)*¹が贈られます。*¹ 参考金額:1ポンド=137円受賞発表時の為替相場に応じて換算予定JDA 2021を振り返り、ダイソンの創業者兼チーフエンジニアの、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「優れたデザイン、エンジニアリングや科学を駆使し、世界の問題に取り組む若いエンジニアたちの熱意を感じ、目にすることを私自身、常に楽しみにしています。今年は、医療関連の発明を対象とした3つ目の賞を設けました。アイデアを商業的な実現や実装すること非常に難しい場合があります。だからこそ、JDAの受賞を通じ、作品やアイデアの認知が高まり、また資金面での支援機会を得ることで、彼らがさらに飛躍するうえでの大きな第一歩になることを願っています。」<各受賞作品>この発明作品で解決を試みる問題:JDA 2021国際最優秀賞を受賞したHOPESは、発明者のひとりであるケル―(Kelu)の父親が緑内障と診断されたことから着想を得た作品です。父親の、不快感に耐えながら何度も病院に通う姿を目の当たりにし、より低侵襲で身近な眼圧モニターが世界中で必要とされていることを実感しました。緑内障は世界で2番目に多い失明の原因といわれています*²。2020年、世界における緑内障患者数は約8,000万人にのぼり、2040年までに1億1,100万人を超えると予想されています*³。概して症状がないため、「silent thief of sight (密かに視力を奪う病)」とも呼ばれています*⁴。治療法はありませんが、早期に診断して治療すれば失明を防ぐことができます。現在、定期的な眼圧測定は、臨床医が長期的な治療計画と目標を決定するための重要なツールです。これは眼圧測定のゴールドスタンダードとみなされている、ゴールドマン圧平眼圧計によって行われます。ペイシェント・エクスペリエンスをより良くするために、安全かつ正確で、低コストの家庭用眼圧測定装置が求められています。解決策:HOPES (Home eye Pressure E-skin Sensorの略)は、痛みを伴わず低コストの在宅眼圧検査用ウェアラブル医療用デバイスです。特許出願中のセンサー技術と人工知能を搭載するHOPESは、ユーザーが頻繁に眼圧を自己測定できる便利なデバイスです。アプリでプロフィールを作成した後、ユーザーはHOPESグローブを装着します。指先の部分がセンサーになっており、これを瞼の中央に押し当てます。この指先部分に独自のセンサー構造が採用されており、ユーザーの眼球の動的な圧力情報をサブミリ秒の精度で取得します。取得した信号は、機械学習アルゴリズムによって処理され、ユーザーの眼圧を継続的かつ正確に算出します。データはペアリングされたデバイスにBluetooth経由で送信されるかクラウドにアップロードされ、臨床医が遠隔地からアクセスできます。アプリでは、読みやすい測定履歴と医療システムへの直接リンクが表示され、ユーザーは将来の症状を最小限に抑えるために医療機関を受診することができます。HOPESに関し、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「緑内障の検査は、侵襲的で不快なものですが、非常に重要な検査であることを、私自身も体験しました。HOPESチームは、自分たちに直接関係がなく、自身たちの家族に影響を与える問題に取り組んでいます。彼らの活動は、緑内障検査をより広く普及させる可能性を秘めています。私は、さらなる開発と医学的承認という困難なプロセスを乗り越えるために、彼らが成功することを願っています。」次のステップ:チームは、国立大学病院の臨床医と協力して患者の眼圧データを収集・分析し、デバイスの機械学習モードを学習させる予定です。同時に、HOPESの性能を最適化し、デザインの改善にも取り組みます。国際最優秀賞受賞に関し、HOPESチームは次のように述べています。「ジェームズ ダイソン氏本人からJDA2021の国際最優秀賞受賞を告げられ、感激しました。すべての始まりはケルであり、彼女が家族として直面した問題を受けて父親のために解決策を生み出そうと努力したことでした。今回の受賞で、将来誰もが自宅にいながら痛みを感じることなく眼圧を測定できるようになることを願っています。私たちは、人々の生活の質を高めたいと考えており、いつか、私たちの研究グループが開発したセンサー技術をロボットや医療用デバイスなどのさまざまなヘルスモニタリングアプリケーションに応用したいと考えています。」事実とデータ:・緑内障は、白内障に次いで世界中で2番目に多い失明の原因であり、眼圧は現在修正可能な唯一の危険因子です。*⁵・緑内障は、日本の中途失明原因の第1位で、40歳以上では20人に1人(5%)の有病率といわれています。*⁶*² https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4525787/*³ https://www.brightfocus.org/glaucoma/article/glaucoma-facts-figures*⁴ https://www.healthxchange.sg/seniors/ageing-concerns/glaucoma-singapore-stats-risk-factors-prevention#:~:text=In%20Singapore%2C%20approximately%20three%20per,less%20than%20half%20this%20figure.*⁵ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4525787/*⁶ https://www.ryokunaisho.jp/ この発明作品で解決を試みる問題:プラスチックは、軽量で安全、かつ入手しやすい素材で、長持ちする丈夫な製品を作ることができます。その反面、プラスチックはリサイクルできないと思われる場合もあり、埋め立てや最悪の場合は海岸や海に捨てられたりすることがあり、懸念も存在します。しかし、適切な技術を用いれば、プラスチックは使用済みの製品をうまくリサイクルし、それ自体が長持ちする耐久性のある新しい製品に生まれ変わらせることができます。課題は、どのようにプラスチックを識別し、埋立地に送るのではなく、正しい方法でリサイクルできるようにするかです。この技術は存在しますが、高価で希少なものです。プラスチックの識別が可能になれば、より多くのプラスチックがリサイクルされ、より効果的に利用できるようになります。解決策:オランダで工業デザインとプロダクトデザインを学んだジェリー ド ボス(Jerry De Vos)が発明したプラスチック スキャナーは、携帯型のデバイスで、プラスチックにかざすと、赤外線でプラスチック部品を検出して、それがどのような材料で作られているかをユーザーに示します。ジェリーは、プラスチック廃棄物の削減を目指す団体Precious Plasticの一員です。この団体での活動を通じ、プラスチック汚染の悪影響やリサイクルの過程でプラスチックが識別・分別されないことで引き起こされる障害を目の当たりにしてきました。世界中で、このプロセスの多くは手作業で行われているため、時間がかかり、得てして間違いが起こりやすくなります。ジェリーは、オランダの大規模な工場で、赤外線の反射を利用して選別を行う技術を成功させています。これは、適切にリサイクルされるための重要なステップです。ジェリーの使命は、この技術を世界中の誰もが利用できるようにして、より良いリサイクルを実現することです。プラチック スキャナーは、離散赤外線を利用してプラスチックの種類を検出します。これは従来の赤外分光法に代わる新しい低コストのアプローチです。このスキャナーは完全にオープンソースのハードウェアでもあり、誰もがブレークアウト基板を組み立てて電子機器を携帯型デバイスに組み込むことが可能です。オープンソースでは、専門家からのフィードバックや改良が歓迎されるため、世界中でより多くの人々がプラスチックをリサイクルするようになれば、このプロジェクトは継続的に改善されていくでしょう。ジェリーは、海洋に流れ込むプラスチックの多くが低中所得国から来ていることを学びました。低コストで使いやすいプラスチックスキャナーを設計し、これらの国々のリサイクル活動を支援することが彼の使命です。開発にあたり、インド、インドネシア、ケニア、キュラソーのリサイクル業者にインタビューを行い、エンドユーザーに適したモデルであることを確認しました。プラスチック スキャナーに関し、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「プラスチックを悪者扱いするのは流行かもしれませんが、耐久性と汎用性に優れた素材であり、重要な役割を担っています。もちろん、プラスチックが埋め立てられるのを防ぐために、効果的に再利用やリサイクルを行うことが課題となります。プラスチックを正しくリサイクルする方法を理解するのは複雑ですが、ジェリーは誰でもアクセスしやすい非常に効果的な技術を開発しました。開発途上国の支援に力を入れているジェリーに、受賞のニュースを伝えるようと電話をした時にも、彼はアルジェリアで地元コミュニティのリサイクル活動を支援していました。」次のステップ:ジェリーは、組み込みシステムや機械学習を専門とする友人チームを集めて新しい試作品の製作をサポートし、産業界や資源の乏しい場所でスキャナーを試験的に使用しています。長期的な目標は、DIYバージョンのスキャナーでプロジェクトを自立させると同時に、オープンソースのドキュメントを充実させて、他の人たちが彼のミッションに関わり、貢献しやすくすることです。サステナビリティ賞受賞に関し、ジェリーは次のように述べています。「ジェームズ ダイソン氏から直接受賞の連絡を受けた際は、大変驚きました。その後、受賞の影響とアワードによってもたらされる可能性を実感し始めました。プラスチック スキャナーの目的は、最も一般的なプラスチックの種類を識別できる、オープンソースのデバイスを作り上げることです。JDA受賞で、モチベーションが大いに高まっています。おかげで、この発明の電子技術とソフトウェア面の両方で、開発プロセスに拍車がかかりそうです。品質を向上させ、直感的に再現できるようにすることで、誰もがプラスチックを適切に識別・分類できるようにし、世界中のあらゆる場所でリサイクル時に直面する最も複雑な障壁の一つを克服したいと考えています。」事実とデータ:・プラスチック廃棄物のうち、新しいプラスチックを作るために再利用されているのはわずか16%です。40%が埋め立てられ、25%が焼却され、19%が廃棄されています*⁷。*⁷ https://www.bbc.com/future/article/20210510-how-to-recycle-any-plastic この発明作品で解決を試みる問題:ナイフによる犯罪は世界中の多くの国で問題となっています。昨年はほとんどすべての大陸で、ナイフ犯罪の発生率が上昇しており、特に銃規制の厳しい国で増加しています。英国やウェールズだけでも、ナイフや鋭利な器具を使用した犯罪が約46,000件に上り、2011年3月期以降で最も多い件数となっています*⁸。英国の救急車の平均待ち時間は現在8分強ですが、出血多量で人が死亡するまでの時間はわずか5分です*⁹*¹⁰。解決策:REACTデバイス (Rapid Emergency Actuating Tamponadeの略)は、ナイフの傷によるおびただしい出血を抑えることを目的としています。現在、刺し傷を治療するにあたり、ナイフの物体がまだ体内に残っている場合には決して傷口から取り除かないことが推奨されています*¹¹。これは物体が傷口に内圧を加えていると同時に、空洞を満たして内出血を防いでもいるためです。ジョセフのコンセプトはこの同じ原理に基づいており、移植可能な医療用シリコーンバルーンタンポナーデが、ファーストレスポンダーによって傷口に挿入されます。タンポナーデのバルブにはアクチュエーターが接続されており、ユーザーはデバイスのインターフェース上で傷口の位置を選択します。操作部のトリガーを押すと、自動膨張シーケンスが開始され、タンポナーデは傷口の位置に応じて定められた圧力まで膨張し、出血を食い止めることができます。ジョセフは、初期の研究開発段階において、創傷パッキングなどの最新の創傷管理技術が、刺し傷からの出血を防ぐために救急救命士によってしばしば用いられていることに気付きました*¹²。この処置では傷口にガーゼをしっかりと詰め込む必要があります。これが内部から患部に圧力を加えるのに役立つのです。彼によると、この処置には時間がかかり、専門的で、被害者に大きな痛みをもたらす場合があるものの、多くの場合、ナイフ創からの出血を速やかに止めることに成功しています。ただしこの方法は、腹部などの体腔の傷には適していない場合があります。ここは、ナイフによる攻撃を受けてナイフ創が生じる最も一般的な場所です*¹³。ジョセフは試作過程で、REACTシステムのシンプルな利用および自動膨張手順が、従来の方法と比べ、ファーストレスポンダーにとってより効果的な方法であることを発見しました。彼の試作したタンポナーデは、1分以内に所定の位置で出血を止めることができる可能性があり、年間数百人の命を救うことができるとジョセフは考えています。REACTに関し、ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「このような問題解決型の発明は、エンジニアが深刻な世界的問題に大きな影響を与えることができることを示しており、これが本アワードを創設した理由です。医療機器の開発は非常に難しく、困難が尽きることはありません。しかし、人命救助につながる可能性が非常に大きいため、ぜひ躊躇せず取り組んでほしいと思います。今回の受賞で本作品が、必要な支援を得られることを願っています。」次のステップ:メディカル賞受賞で本プロジェクトは、さらに30,000ポンド(約411万円)1 の資金を得ることになります。彼は今後数年間で発明を商業化することを目指しています。今回得る賞金は、REACTがナイフによる傷の世界的な解決策となり、人々の命を救うことができるようになるための、さらなる研究や正式な医療テストに用いられます。メディカル賞受賞に関し、ジョセフは次のように述べています。「医療革新に贈られる本賞を受賞し、言葉では言い表せないほど感謝しています。ナイフによる犯罪は毎年何千人もの命を奪っている恐ろしい世界規模の問題です。REACTシステムはナイフ犯罪との闘いにおいて救命手段となる可能性を秘めていますが、医療機器の開発は長く困難なプロセスです。JDA受賞により得られる評価と資金のおかげで、可能な限り早くREACTシステムを開発してファーストレスポンダーのもとに届けるという、決意と自信が生まれました。」事実とデータ:・世界中、特に銃規制が厳しい国々でナイフによる犯罪が増加しています。国ごとのナイフ犯罪の発生率はこちらから。*⁸ 国民保健サービス(NHS)および国家統計局(ONS)の公式データより*⁹ 2020年11月における国民保健サービス(NHS)の公式データより*¹⁰ 国土安全保障省。(2015).Stop the Bleed (止血しよう). [オンライン] 公開: https://www.dhs.gov/stopthebleed*¹¹ Hammett, E. (2020). How to help someone who has been stabbed or is seriously bleeding (刺された、または大量に出血している人を救う方法). [オンライン] First Aid for Life.こちらで公開: https://firstaidforlife.org.uk/knife-crime-serious-bleeding/*¹² Hammett, E. (2020). How to help someone who has been stabbed or is seriously bleeding (刺された、または大量に出血している人を救う方法). [オンライン] First Aid for Life.こちらで公開: https://firstaidforlife.org.uk/knife-crime-serious-bleeding/*¹³ Sugrue, M.、Balogh, Z.、Lynch, J.、Bardsley, J.、Sisson, G.およびWeigelt, J. (2007). GUIDELINES FOR THE MANAGEMENT OF HAEMODYNAMICALLY STABLE PATIENTS WITH STAB WOUNDS TO THE ANTERIOR ABDOMEN (前腹部に刺創のある血行動態的に安定した患者の管理ガイドライン). ANZ Journal of Surgery、77(8)、pp.614–620. ※以下、メディア関係者限定の特記情報です。個人のSNS等での情報公開はご遠慮ください。このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります。
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