MOROHA、初の『”単独” @日本武道館』ーー「あなたがいてくれたから名曲でした」結成15年の軌跡が集約した、命懸けのステージ
『”単独” @日本武道館』2022.2.11(FRI)日本武道館(TOKYO)
「良いライブだった……」と観客やスタッフを含め口を揃えて言った。「良いライブとは?」と聞かれても一言では言い表せないし、明確に定義できないが、ハッキリとそう感じた。2022年2月11日(金・祝)、MOROHAが結成15年目にして、初めて日本武道館でワンマンライブを行った。
MOROHA
前日に雪が降ったので天候が心配されたが、当日は気持ち良いほどの快晴。正午にメンバーが会場に到着すると聞き、先に控え室で待っていると「おはよう!
MOROHA
迎えた開演時間、2人がステージに姿を現すと場内から大きな拍手が起きた。UKが定位置に座りギターを手にする。数分後、アフロが手を上げたのをキッカケに、会場に流れていたSuiseiNoboAzの「E.O.W.」が止んで、パッと客席の明かりが落ちた。ステージにはほのかなライトが点り、バックドロップ幕のMOROHAと書かれた文字だけが青く染まった。重々しい雰囲気の中、2010年にリリースされた1stアルバム『MOROHA』の収録曲「イケタライクヲコエテイク」で幕を開けた。
MOROHA
この曲にはMOROHA結成初期を物語るフレーズがある。<行けたら行くとはぐらかされて辛い
MOROHA
1曲目が終わり「本日、頂いた(代)6,500に届くまでは……ひたすらに書く、ひたすらに弾く」とアフロがハッキリとした口調で言うと「一文銭」へ。その後「二文銭」「奮い立つCDショップにて」「恩学」を立て続けに歌った。そして、アフロは鋭い眼光で客席を睨みながら低い声で話す。「ワンアコースティックギター、ワンマイクロフォン。こんなへんてこりんな編成で、爆音のバンドを押しのけて、爆音のHIPHOPを蹴飛ばして、ここまでやってまいりました。どうやって戦ってきたか?
MOROHA
さらに凄みを感じたのは「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。売れずに辞めていったアーティストたちを横目に<勝てなきゃ皆
MOROHA
「人は、手に入った物じゃなくて、手に入らなかった物でできてるんだもんね」。これはドラマ『anone』の中で、田中裕子演じる林田亜乃音がいなくなった娘を思いながら言った台詞だ。「本気で愛した人」は目の前からいなくなっても、いつだって心の部屋に居続ける。MOROHAにとってそれは「拝啓、MCアフロ様」に込められている。「この手紙は、バカな男を愛したバカな女が、最後の力を振り絞って書いた手紙です」と言って歌い出した。<チラシの裏に書いた置き手紙と
MOROHA
<次に選ぶのはあたしみたいな
MOROHA
MCになり、アフロがUKにサプライズを仕掛けた。コロナの感染拡大を危惧して会場に来れなかったUKの母親に、電話をかけようと持ちかけたのだ。そして、スタッフから渡された携帯を見てUKが一言。「Tinderの通知が来てたから、先にそっちでもいい?」。ドッと会場に笑いが起こると「これがMOROHAだぜ!
MOROHA
「さっき「おめでとうなんて、ぬるいことを言わないでくれ」と言ったんですけど、俺たちには要らないんですけど、俺たちのことを信じてくれたスタッフには……おめでとうを、俺からも言いたいと思ってるくらい、ありがたいと思っていて。こんなへんてこりんな音楽を聴いて、絶対に良いから一緒にやっていこうと言ってくれた人たちが沢山いてくれたことが、紛れもなく財産だなと思っています」と仲間に対する感謝の気持ちを話すと、次曲へと繋げた。「次の曲は、そんな俺たちの大切なスタッフが、一生懸命レンズ越しに俺たちのことをとらえて、俺たちを追いかけてくれる人たちのことをとらえてくれた。その瞬間瞬間を思いながら書いた曲でございます」。「エリザベス」の演奏が始まると、ステージの両端に、映像作家・エリザベス宮地が撮影した2016年から現在までの写真がスライドショーで流れた。そこにはアフロとUKの姿はもちろん、MOROHAを見てきた人、通り過ぎた記憶が映し出されていた。
MOROHA
気づけば、2時間にわたる武道館公演が終わりを迎えようとしていた。アフロが観客に最後の言葉を発する。「なんで武道館でやりたいと思ったかというと、母に教えたいと思ったんです。ウチの母親は田舎者で、俺も田舎者なんですけど、田舎から出てきた人は分かると思うんだけど、テレビとか出ている人のことを神様だと思ってるんですよね。だから俺がテレビに出たりでっかいフェスに出ると、すごい喜んでくれて。それが嬉しくて頑張ってきたんだけど、呼ばれる時と呼ばれない時があるからさ。ある時、母親から「この先、フェスとかテレビに出る予定はないの?」と聞かれた時に、「んー、今のところはないかな」と言ったら寂しそうな顔をしたんです。その時に本当は言いたかった言葉があるんですけど……」と一瞬、間が空いた後「あー!」とアフロは言葉にならない感情を声に出した。
MOROHA
「その時に言えなかった言葉があって、それを伝えるために、武道館をやりたいと思ったのがデカく1個ある。音楽というのは、表現というのは、数字とか規模とかそういうことじゃないんだよ。もちろん続けていくためには、それも大事だったりするんだけど。俺はどんな現場でも、お客さんが1人でも2人でも、俺とUKは毎回力一杯ライブをしてきた自負があるし、ひとりひとりに対して歌ってきた自負がある。だから、そんな生き方をしてる俺のことを誇ってほしいと、その時に本当は言いたかったんだけど、それだと今言ったままじゃ負け惜しみだと、俺自身が思ってしまうと思ったから、説得力のある場所に立ちてえなと思って武道館でやろうと決めました」
MOROHA
「思い上がりかもしれないけど、今日来てくれたお客さんの中で「みんながMOROHAを好きだから私も好き」だと、そういうノリで来たお客は1人もいないと思っていて。自分が好きだからずっとひとりで向き合ってきた音楽と、武道館で向き合いたいと思ってきてくれたお客がほとんどだと、全てだとおもっていて。そういう音楽をやってこれたこと、すごく誇りに思っております。スタッフが袖から会場を見て「MOROHAは沢山のファンがいて良かったね」と言ってくれた。その言葉がなんとなく頭に残っていて、ずっとライブ中によぎっていたんだ。「ファン」というのは違うんじゃないかなと俺は思っていて、これも思い上がりかもしれないけれど、MOROHAのお客はMOROHAのファンじゃなくて、自分のファンになりたい人たちなんだろうなと俺は思っています。そういうお客が目の前にいることが、すごく嬉しい。なぜなら……」。顔を歪ませて、声を震わせて、今にも溢れそうな涙を堪えるアフロの姿は、自ら般若の面を取った瞬間に思えた。
MOROHA
「なぜなら……俺もUKも同じだからです。俺は、俺のことを好きになりたかった。ここまでやってこれたのは、みんなのおかげだと思うし、自分のおかげだとも思います。だから、今までもこれからもありがとう、という気持ちを込めて、次が最後です。アンコールはありません。もっと聴きたいという気持ちは、もっと生きたいという気持ちに変えてください。俺も、もっと歌いたい気持ちを、もっと生きたいという気持ちに変えるんで。また笑顔で、笑顔じゃなくても、逞しい顔で会いましょう」。それまで客席を見ていたUKがギターに目線を落とし、「六文銭」を弾き始めた。
|人間は決して救われやしないんだ」
MOROHA
<諦めに向かう地図を破れば
弦をかきむしるUKの演奏が続く中、アフロが最後の力を振り絞るように叫んだ。「ライブが終わって、ステージの明かりが消えて、客席の電気が点く。その瞬間から俺たちのステージは終わって、あなた方のライブが始まる!
MOROHA
2人が去った後、もはや誰ひとりとして名残惜しそうにステージを見ている者はいなかった。それぞれがおもむろに席を立ち、武道館の重いドアを開けて出ていった。ライブと書いて生き様と読む。あれは間違いなく、良いライブだったんだ。
文=真貝聡