公衆電話を撤去して設置されたスマートステーション「LinkNYC」
一方、韓国ではポスト・コロナ時代を見据えた新しい生活スタイルに合わせて公衆電話ボックスが生まれ変わろうとしています。韓国の通信キャリア、KTの子会社で公衆電話事業などを展開するKT Linkusは、韓国の衛生防疫関連企業のソーラーイノテックと組み、公衆電話ボックス内に殺菌エアシャワーを組み込んだ「市内防疫ブース」の設置を始めました。ショッピングモールなど人ごみの多い場所を訪問した後、外に出てからこの公衆電話ボックスに入り、ボタンを押すとエアシャワーが10秒吹き付けられ衣服や全身の除菌ができるとのこと。除菌に要する時間はわずか10秒。光触媒よるOHラジカルを利用したシステムで、ソウル市や水原市の6か所に試験設置されており、2022年1月31日まで実証実験が行われます。
このエアシャワーは焼き肉店で食事後、身体全体に匂いがついてしまったときの消臭用途にも使えます。人間が1人ちょうど入れるという公衆電話ボックスだからこそ、これまで出先では難しかった全身の消毒や消臭が効率的に行えるわけです。
また撤去した公衆電話ボックスの再利用も始まりました。KT Linkusと韓国でシェアオフィスなどを展開するアラワークエンオルは余剰公衆電話ボックスを「アラブース」と名付けた1人用シェアオフィスとして展開しています。作業テーブルとギガビットの高速インターネット回線、空気清浄機などが設置され、仕事やビデオ会議、またオンラインゲームなどが楽しめます。
アラブースは日本でも地下鉄やJRの駅に設置が進んでいる1人用シェアオフィスボックスと同様なサービスが提供されます。カフェなどもちょっとした空間があれば簡単に設置もできるので、空きスペースのマネタイズも可能になるでしょう。
KT Linkusはすでに公衆電話ボックスを電気自動車の充電ステーションや、電動バイクのバッテリー充電器にするといった事業も進めています。今後は一人用の移動手段として電動キックボードの利用も増えるでしょうから、各所にあった公衆電話ボックスが新しい移動ツールの充電場所へと有効活用されているのです。
このように韓国では公衆電話ボックスの再利用が進んでいますが、世界各国を見ると撤去が進んでいるところもあり、すでに街の中から姿を消してしまったところも多くあります。しかしこれから5Gを普及させていくには4G時代以上に多くのアンテナが必要となります。また都市のスマート化のためには街中への監視カメラの設置も不可欠です。電気自動車が当たり前になると充電場所もより増やさなくてはならないでしょう。次世代の都市にはそれらの機能を備えた設備、いわゆる「スマートポール」が必須となります。
スマートポールはLinkNYCの機能をさらに拡充したような設備で、公衆電話ボックスの設置場所にスマートポールを置き換えていくことは都市のスマート化にとって有用です。
スマートポールは電柱のような形ですが、人間の手が届く場所には電気自動車だけではなくスマートフォンなどを充電できる端子などを備え、上部にはWi-Fiや5Gのアンテナを設置、また付近を360度監視できるようにIPカメラも取り付けられています。街中の監視や5Gの電波を必要とする人の数を考えると、繁華街に残されている公衆電話ボックスの場所はスマートポールの設置場所として最適と言えます。
また今は空撮用など個人の趣味として使われることの多いドローンも、いずれは小物の配達などに使われるようになるでしょう。今のドローンはWi-Fiで操作するため、ドローン本体のそばに操作する人が必要となります。ドローンが5Gで操作できるようになれば、遠隔地からドローンを飛ばすことができますが、ドローンに搭載されているバッテリーは小さいため、何時間も連続して飛ばすことはできません。
そこでスマートポールの一番上の部分にドローンのワイヤレス充電台を設置して、ドローンを飛ばしながらも電池容量が少なくなれば自動的に着陸、充電後に再び目的地へ飛ばす、という「ドローン・ハブ」をOmniflowなどが開発しています。
公衆電話ボックスは本来の「外出先で、どこにも電話がかけられる」という用途として使われることは無くなりました。しかし安易に撤去してしまうよりも、将来のスマートシティー化を見越して、スマートポールの設置場所として残しておくべきかもしれませんね。