こう説明するのは、AI搭載のECサイト内検索エンジン「goo Search Solution(グーサーチソリューション)」を提供するNTTレゾナントのシニアコンサルタント・北岡恵子氏。ECサイト内検索の精度を高めるためのポイント、検索機能で押さえるべきこと、今後一般化が見込まれる新しい検索体験を解説する。
サイト内検索の精度は購買率と離脱率に大きく影響
「コロナ禍でEC需要自体が高まっている。ECサイトを運営する上で検索機能の精度を高めれば、売り上げに与える影響はより大きくなる」と話す北岡氏。検索機能が重要な理由は大きく3つあげられる。
- キーワード検索を経由して商品にたどり着いたユーザーは、圧倒的に購買率が高い
- サイトを訪れたユーザーの8割が検索を利用する一方、半数以上は検索で商品が見つかっていない
- 商品が見つからなければ8割以上のユーザーがサイトから離脱する
キーワード検索を経由して商品にたどり着いたユーザーの購買率が圧倒的に高い要因は、欲しい商品がほぼ決まっているユーザーが自らサイト内検索を利用するため、検索結果で欲しい商品が見つかれば購入=コンバージョンに至る確率が高いためだ。
訪問者が商品詳細ページに至るまで、サイト内でカテゴリーを絞ったり、外部の検索から流入したり、特集バナーや広告を経由したりするなど、さまざまな導線が考えられる。このなかでもサイト内検索によって商品詳細ページにたどり着いたユーザーの購買率はほかの流入経路に比べ、平均すると約10倍も高いという調査結果が出ている。
NTTレゾナントが行ったユーザーアンケートによると、約8割のユーザーが「サイトにアクセスした後、まずキーワード検索をする」と回答。しかし、このうち半数以上が「検索で欲しい商品が見つからなかったことがある」と答えている。ECサイトに検索ボックスを設置していても、検索精度が低く欲しい商品にたどり着けなければ、販売機会の損失につながりかねない。
「欲しい商品が見つからなかった場合にどうするか」という質問に対しては、「他のサイトに行く」(56%)「実店舗に行く」(29%)と回答しており、8割以上がサイトから離脱することがわかった。この調査はコロナ禍以前に実施したため、外出自粛が要請される現在では、「実店舗に行く」割合が減少し「他のサイトに行く」割合が増えていると推測している。
サイト内で検索しても、なぜ欲しい商品が見つからないのか
ユーザーが欲しい商品に該当するものを取り揃えていても、サイト内検索で欲しい商品が見つからないケースは少なくないという。その要因は大きく3つに集約される。
- ユーザーの検索方法に問題がある
- 検索結果に表示されるが、後ろの方に表示されていてユーザーが見ない
- キーワードに当てるだけの検索になっているため、ユーザーが求める商品が表示されない
1つ目の「ユーザーの検索方法に問題がある」とはどのようなことか。2020年にGoogleが公開した調査結果によると、10件の検索入力のうち1件はスペルミスがあるという。これはGoogle検索の調査結果だが、ECサイト内の検索ボックスでも一定数の入力ミスが生じていることが十分に考えられる。
2つ目「検索結果に表示されるが、後ろの方に表示されていてユーザーが見ない」については、SEOに取り組んでいる担当者には言うまでもないことだろう。ユーザーは、さほど下位まで検索結果を見ていない。「検索結果の上位に表示されることの重要性」はSEOだけでなく、ECサイトにおける商品検索結果でも当然重要になる。
3つ目の「ユーザーが求める商品が表示できていない」ケースは、一般的なECサイトでよく見受けられるという。たとえば、PC製品の「バイオ(VAIO)」を探しているユーザーに対して、キーワードにマッチしただけで、「バイオ」に対応したイヤホンなどの周辺機器が検索結果の上位に表示されてしまうという事例がある。
また、「バイオレット」という色のワードに反応した、欲しい商品とまったく関係のないものが検索結果に表示されるような事例もあるという。結果的に欲しいPC製品自体が検索結果の上位に表示されなければ、サイトからの離脱につながってしまう。
検索機能を導入して終わりにしていないか?
検索ボックスをはじめ、チャットボットやレコメンド機能は「導入しただけで満足してはいけない」と北岡氏は指摘する。こうした機能は導入してからがスタートで、運用をおろそかにしているせいで機能が十分に発揮できていないケースが散見されるという。
単純に検索ボックスを設けてキーワードにヒットした商品を表示するのではなく、ユーザーが探している商品を表示する検索機能を実現するためのポイントを押さえておきたい。
まず、ユーザーが入力したキーワードを正しく解釈することが重要になる。電子レンジを探しているユーザーが「レンジ」と入力した際、「オレンジ」というワードも反応して表示されてしまうような場合、キーワードを正しいところで区切れていないため、ただワードを当てるだけになっていると考えられる。
次に、検索の精度を高める上で欠かせないことは、“表記ゆれ”を吸収することだ。たとえば、ユーザーがごみ箱を探しているケースでは、「ごみ箱」「ごみ 箱」「ゴミ箱」「ごみばこ」「くずかご」「ダストボックス」のように、探している物は同じでも膨大な数の入力の仕方が考えられる。どのキーワードでも該当する商品を表示しなければならないが、表記ゆれはECサイトの検索で頻繁に起こる事象だという。
実際に、日本語の表記ゆれは、下の図の通り多数のバリエーションが存在する。
最後に重要となるのが、「ユーザーが求めている順番」で表示することだ。「ユーザーが求めている商品=売れ筋商品」ではないにもかかわらず、売れ筋順に表示してしまうと、探しているものとはまったく異なる商品が上位に表示されかねない。たとえば、「Tシャツ」というキーワードで検索したときに、商品説明文に「Tシャツに合う」と入っている売れ筋のスニーカーが上位に表示されるといった具合だ。
AIで運用の手間をかけずに検索結果を最適化
キーワードごとに検索にヒットする商品を最適化し、ユーザーの求めているものにマッチする商品を表示する運用が必要となる。その複雑で膨大な運用業務の解決策として、NTTレゾナントはAIの活用を推奨している。
同社が提供するサイト内検索エンジン「goo Search Solution」はAIを搭載しているため、表記ゆれへの対応に強い。また、ユーザーの行動ログから自動的に検索結果が最適化できる仕組みになっている。AIの活用により、検索機能の運用にかかる負担が少ないこともEC事業者にとってのメリットだ。
「goo Search Solution」のAIは、ECサイトを訪れたユーザーがどういう検索をして、どのような商品をクリックしたのか、何をカートに入れて購買に至ったのか――など、サーバーに蓄積している行動ログを活用して検索結果を最適化している。
テレビで取り上げられて話題になった商品、母の日などのイベントや季節性の要因でニーズが高まるような商品も、日々蓄積するログからAIが最適化して検索結果に反映している。
NTTレゾナントはポータルサイト「goo」の運営で蓄積した豊富な表記ゆれのデータを「goo Search Solution」に活用しているため、表記ゆれへの対応に強みを発揮している。また、「goo Search Solution」導入企業ごとに表記ゆれの“辞書”を自動で作成できるため、どのような商品を取り扱っていても運用の手間をかけずに表記ゆれが吸収できるという。
これからの“ミライの検索”はどうなるのか?
検索ボックスにキーワードを入力すると該当する商品が表示される、という従来の一般的な検索以外にも、さまざまな検索機能が登場している。
スマートフォンやAIスピーカーの機能などですでに普及が進んでいる音声検索も、ユーザーのニーズがますます高まり、ニーズに合わせた進化を続けている。
「モバオク」のAndroidアプリでは、音声検索で特徴的なUIを採用している。例えば「送料無料の1500円以内の新品の腕時計が欲しい」と話しかけると、直接検索結果を表示するのではなく、まず欲しい商品の条件を表示するようにしている。
いきなり検索結果を表示してしまうと、自分が話した言葉や条件を正しく認識できていない場合にニーズとマッチしない商品が多数表示されかねない。こうしたストレスを防ぐため、条件を提示し、話した内容とマッチしているかをチェックした上で検索結果を表示するようにしている。
音声検索の裏側の仕組みはどうなっているのか。たとえば、「カシオの人気の時計が欲しい」と音声検索した場合、このままのキーワードで検索してしまうと当然、検索結果には何も出てこない。まず、品詞ごとに分解してその中で必要なワードを判別、このワードをもって必要な条件で検索するようになっている。こうした仕組みによって、自然な言葉で検索しても高精度で最適な検索結果が表示できるという。
音声検索は①入力スピードの速さ②ハンズフリー(何かをしながらでも検索できる)③アイズフリー(何かを見ながらでも検索できる)――という点で、ユーザーメリットが高い。実際に、「ながら」利用が可能な音声検索の利便性が、スマートスピーカーの利用者増の一要因となっているようだ。
検索の分野でも「パーソナライズ」のニーズと重要性が増している。デジタル化が進み、ユーザーのログが蓄積される中であらゆる分野のパーソナライズ化が精度を高めているが、検索機能でも同様にパーソナライズ化された検索結果が表示できるようになっているという。
検索のパーソナライズ化とはどのようなものか。たとえば、「スコップ」というキーワードで検索した場合、冬の北海道では雪かき用のスコップを探すケースが多いと考えられ、沖縄では雪が降らないため園芸用などのスコップを探していると考えられる。ユーザーが住むエリアによる検索結果の出し分けは効果的で、「goo Search Solution」ではより高いコンバージョンを実現しているという。
このほか、法人顧客か個人顧客かで検索結果を出し分けることによって、ニーズにマッチした商品を表示している事例もある。
お菓子やパンの材料を販売するECサイト「cotta」は、2020年10月に「goo Search Solution」を導入し、パーソナライズ機能を実装。その際に法人向けと個人向けで検索結果を出し分けるようにした。
たとえば、砂糖を探しているユーザーが飲食店などの法人アカウントであれば大容量の業務用サイズを上位から表示し、個人アカウントであれば個人用サイズを優先的に表示するようにしている。
「cotta」では、法人・個人別に出し分けるようにしたことで、特に法人向け商品のコンバージョンが大幅に向上したという。
検索がもたらす効果、「goo Search Solution」の導入事例
「goo Search Solution」導入企業の事例では、検索機能を強化したことにより、「0件ヒット(検索したけれども何も出てこない)」の確率が25%減少したり、検索結果の表示件数が23%増加したりと、さまざまな効果が出ている。
「ナノ・ユニバース」では表記ゆれへの対応や、スマートフォンなどの小さな画面でも直感的に操作でき、目的の商品にたどり着きやすくするための機能「タッチサジェスト」の導入などが奏功し、コンバージョン率は85%アップ、1人あたりのPV数は1.5倍に伸長。その結果、売り上げは導入前の2倍超に達している。
また、トイザらスでは人の手による運用稼働が大幅に削減でき、その他の施策にリソースを回せるようになっただけでなく、0件ヒットの改善やコンバージョン率が最大400%アップするといった成果が出ている。
検索機能は改善と最適化を繰り返しながら日々運用していかなければならない。では、人の手によって小まめにチューニングしても効果があるのだろうか。こうした質問に対して「効果はあるが、非常に限定的になる」と北岡氏は話す。その理由は、ほぼ全てのECサイトがロングテールのキーワード構成になっているからだ。
ロングテールは、下の図のように青枠で示している「多くの人が検索しているワード」の上位部分と、赤枠で示している「ニッチなワード」のテール部分で構成される。検索でコンバージョンを高めるためには、赤枠のテール部分がより重要で、ここの改善と強化のために手を入れ続けなければならない。
しかし、テール部分のログを人の手によって1つひとつ見て改善するのは限度がある。そればかりか、実際に人が手を入れられる部分は、青枠の上位ワードの中でもよく目につく1%未満という非常にわずかなところだけになるため、そこだけを対応しても大きな効果が得られないというわけだ。
自社ECサイトの検索が機能しているか、運営するサイトで確認し、日々の運用の中でも心かけてほしいとしている。