皆さんは若い世代の人たちとLINEなどのメッセージサービスでやり取りしたことがありますか? 家族や部下など、相手との関係はさまざまだと思いますが、共通する特徴に気付いた方もいると思います。それは「句読点」です。
前回、「おじさん構文」をテーマにしたときに、大人世代は句読点が多く、長文で絵文字がふんだんに入っていると書きました。メールでの交流に慣れている大人世代は、作文を書くときと同様に、正しい日本語で記します。LINEなどのメッセージサービスでも、文体は句読点を含んだ「書き言葉」を使う人も多くいます。
ところが、チャット形式のメッセージサービスでは、会話をするようにメッセージを送り合います。メールのように用件や意見を述べて返事を待つのではなく、話し合いをする感覚に似ています。そこで、「どちらがいいでしょうか。」ではなく、「どっちがいい?」といった言葉に変化します。つまり「話し言葉」ですね。
しかし、くだけた文章になったとしても、やはり書き言葉になりがちなのが大人世代です。その際に、相手に伝わりやすくしたいと考えるのか、必要以上に読点が多くなる人がいるようです。「昨日、大阪に、行ったよ。」といった具合です。
若い世代は「昨日」で送信、「大阪に行ったよー」で送信と、文節ごとに送信する人が多くいます。また、「昨日大阪に行ったけど買いたいもの売り切れだったぴえん」というように、句読点を一切使わずに文章を書く人も珍しくありません。句点に関しても、「会話の終わりを感じて冷たい」「なくても困らない」といった理由であまり使われません。
「書き言葉」や「話し言葉」とは異なるこうした言葉は、「打ち言葉」と呼ばれます。2018年3月に文化庁が発表した「分かり合うための言語コミュニケーション(報告)※1」で、「話し言葉の要素を多く含む新しい書き言葉」として「打ち言葉」を定義しました。「おk」「うp」のような、打ち間違いを起源にしたと考えられるネットスラングも打ち言葉になります。
※1 「分かり合うための言語コミュニケーション(報告)」(https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/1401904.html)
若者の流行語にも打ち言葉がよくランクインします。Simejiが2019年に発表した「10代女子が選ぶ 流行りの若者言葉・略語 TOP10※2」の1位は「り」です。これは「了解」を意味する言葉で、「りょ」から「り」へと省略化が進みました。5位の「あね」も「あーなるほどね」「あーそうだね」の略で、「あーね」だったのが省略されています。
※2 「10代女子が選ぶ 流行りの若者言葉・略語 TOP10」(https://simeji.me/simeji-ranking/backnumber/2019_05/)
また、書き言葉には声の質や高さ、イントネーションといった「パラ言語(paralanguage)」が含まれないため、打ち言葉では絵文字やスタンプなどで情報を補完します。若い世代は「ぴえん」「アセアセ」といった言葉を文末に入れることで、感情の表現をします。「アセアセ」はマイナビティーンズラボの「【2020年】ティーンが選ぶトレンドランキング※3」の「流行った-コトバ篇」で4位にランクインしています。
※3 マイナビティーンズラボ「【2020年】ティーンが選ぶトレンドランキング」(https://teenslab.mynavi.jp/column/trendranking2020/)
いつの時代も若者は独自の言葉を編み出し、仲間内で楽しく使うことで流行語を生み出してきました。オンラインでの交流が増えることで、書き言葉が打ち言葉へと進化し、打ち言葉を口語でも使うようになるケースも生まれています。言葉は生きている、と感じさせられる現象ですね。
出典:日経パソコン、2021年8月23日号、同名コラムより記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。[画像のクリックで別ページへ]