TV番組は「観る」から「聴く」へーースマホ撮影するだけで番組音声がリアルタイムで聴ける「Tunity」が1200万ドルの資金調達 | BRIDGE(ブリッジ)テクノロジー&スタートアップ情報

沿って : Ilikephone / On : 21/04/2022

「スマホシフト」と叫ばれてから数年ほど経つでしょうか。

TV番組の視聴シーンは、大型液晶モニターからスマホ画面に移りつつあります。たとえば、報道番組の各トピックを短尺動画として「Facebook」や「Youtube」で配信したり、「Abema TV」や「Netflix」、「Amazon Prime Video」のような動画ストリーミング事業者へ番組コンテンツを提供することで、TV局はスマホ視聴の需要に対応しています。

動画ストリーミング事業者が台頭してきた背景には、配信事業の敷居が低くなった点が挙げられるでしょう。たとえば、「Facebook」や「Twitter」、「Youtube」への配信は無料で行えますし、自社アプリを通じた動画配信の場合も、クラウドの活用事例が増えていることで配信事業の低コスト化に拍車がかかっています。

サイバーエージェントの藤田晋社長は 「Twitter」上 でこんな発言をしています。

今や配信コストがボトルネックになる時代は過ぎ去りつつあるのではないでしょうか。

こうした大手配信業者が台頭してきた流れの中、スマホから公共スクリーンへコンテンツの配信拠点が拡大しています。公共スクリーンの事例として、山手線や中央線電車内のスクリーン、新宿駅構内で使われる大画面液晶スクリーンが挙げられるでしょう。動画配信事業者の参入数が増えたことによって、これまでTV画面の中でしか消費できなかったコンテンツが、様々な生活シーンで視聴できる環境になりました。

こちらの記事 によると、動画ストリーミング市場を包括するビデオオンデマンド市場は、2021年までに世界規模で640億ドルに至るそうです。2015年時点で294億ドル市場であったので、年間成長率は約14%。また別の記事によると、公共スクリーンに代表されるデジタルサイネージ市場は、2016年時点で160億ドル規模。2025年には、ほぼ倍増の310億ドルへと成長する見込みです。

動画コンテンツの配信方式の幅が広がり、ユーザーの動画視聴シーンは、各ユーザーのスマホを通じて直接コンテンツを視聴させる「1:1(1コンテンツ当たり1視聴者)」の図式と、公共のスクリーンを通じて配信する「1:マス(1コンテンツ当たり複数視聴者)」の2つに分かれました。

「1:1」の場合、ユーザーのスマホに直接コンテンツを届けることができるので、より高い訴求効果が期待できます。一方で「1:マス」では、問題が大きく2つ発生します。

  1. マスへのリーチを前提としているため、1人当たりのコンテンツ訴求率が低い
  2. 1台の大型スクリーンを置いているだけなので、距離が遠いと聞き取りづらく視聴環境のレベルが低い

上記2点の課題を解決しようとしているのが、今回紹介する「 Tunity 」です。同社は、TV番組が流れている液晶画面をスマホで撮影するだけで、配信されている番組のオーディオ内容だけを専用アプリを通じてユーザーに届けます。ユーザーは、「Tunity」と提携しているTV局の配信コンテンツを撮影すれば、すぐにオーディオコンテンツとして自分のスマホで聴くことが可能になります。

「Tunity」の強みは、ディープラーニングとコンピュータビジョン技術です。画面に映っている、リアルタイムで配信されている番組内容を瞬時に識別して、映像と音声を紐付けます。こうして、ユーザーの目の前で配信されているTV番組が無音状態であったり、聞き取りづらい状況であっても、音ずれの問題もなく、的確にオーディオコンテンツのみを届ける特許技術を確立しました。

アメリカでは、 自宅外でのTV番組の視聴が市場の20%を占めている とのこと。言い換えれば、5人に1人が公共の場でTV番組を視聴していることになり、前述した「1:マス」の視聴シーンに当たります。TV局側は、この20%に当たる視聴者層へより効率的に番組及びCMコンテンツを届けるために「Tunity」のオーディオストリーミング事業へ参画。ユーザーにとっては、登録番組が増えるほど、多くの番組を自宅外でも気軽に楽しめるようになります。

Image bySascha Kohlmann

「Tunity」が想定している利用シーンは2つあります。

1つは、ジムや病院、ホテルの待合室で流れているTV番組を、ストレスなく視聴できる環境を整えるシチュエーション。たとえば山手線内で流れている動画コンテンツを、自分のイヤホンを通じて直接聞きながら、コンテンツを楽しみたいユーザーニーズが挙げられるでしょう。

2つ目は、視聴はしないがオーディオで聞き流しをする利用シーン。たとえば、ジムでストレッチをしている人の中で、しばしばイヤホンを付けながらトレーニングに励んでいる人を見かけます。このような視聴するニーズより聞き流すニーズの方が強いユーザーが「Tunity」を使えば、最寄りの画面に映っているTV番組をスキャンするだけで、画面から離れてもオーディオとしてコンテンツを届けることが可能になります。

筆者が注目するのは、後者に挙げたオーディオコンテンツ需要を持つユーザーです。

目の前に流れているTV番組を、周りの雑音を気にせず視聴したいニーズのためだけに、スマホを使ってわざわざ画面をスキャンする利用シーンは考えづらいと思います。一方で画面を離れても、オーディオコンテンツとして楽しめる需要の方はしっくりくるでしょう。

筆者が北米に住んでいた際「Youtube Red」(現在日本では未展開)に課金し続けていた理由は、オフラインモードで「Youtube」のコンテンツを電車や通勤徒歩中でもデータ利用量を食わずにオーディオで楽しめたからです。

日本へ帰国してからも、「Amazon Prime Video」のオフラインダウンロード視聴機能を使って、電車移動や喫茶店で執筆作業をしている際に動画コンテンツをオーディオで楽しんでいます。

このように、動画コンテンツをオーディオとして楽しむには、直接端末へダウンロードする機能を備えたサービスを使うしかありませんでした。しかし、「Tunity」の登場によって、TV局は手軽に番組のオーディオコンテンツ配信という新たなチャネルを得ることができます。

TV番組のオーディオ体験を提供することで、視聴者へのリーチ範囲がさらに広まったと考えていいでしょう。ポッドキャスト市場は超成長市場であり、 2017年のアメリカにおける市場規模は2.2億ドル に達し、前年比85%の成長率を誇ります(2016年度には前年度比75%成長)。この点、TV局は自社系列のラジオ放送にだけ目を向けるのではなく、視聴コンテンツのオーディオ化に新たな商機を見出してもいいタイミングだと考えられます。

Image byGeorgie Pauwels

ここ数年、TV局が動画ストリーミング事業者に寄り添わざるを得ない構図が見受けられました。たとえばフジテレビは「Netflix」へ人気コンテンツ「あいのり」や「テラスハウス」を、テレビ東京は「Amazon Prime Video」へ「孤独のグルメ」を提供することで共存を図っています。

しかし「Netlifx」や「Hulu」のような事業者は自社コンテンツへの投資を増やしています。今となっては、単にTV番組や映画コンテンツをスマホで視聴できるだけではユーザー訴求力が足りず、オリジナルコンテンツ配信が戦略の肝となっているからです。プラットフォーマーがオリジナルコンテンツへ戦略の重点を置いている中では、より一層TV番組の提供価値が薄れ、依存度も低くなります。

一方「Tunity」は100%TV局に頼っていかざるを得ません。そのため、売り手のTV局側が圧倒的に優位な立場にあります。一方でコンテンツのリーチが広がり、これまで訴求できていなかった視聴者層へCMコンテンツを届けられるので、広告スポンサーへ納得のいく説明もできるようになります。これはTV局にとってかなりのメリットのあるプラットフォームが誕生したとも言えるのです。

すでに北米の代表的なTVネットワーク「FOX」や「CBS」、「ESPN」を含む合計100チャンネルが「Tunity」の事業ネットワークに参画。「Wework」や大手リゾートホテルグループの「MGM Resorts International」が投資家として名を連ねている点を見ると、今回の資金調達を経て、川上から川下までの全てを完璧抑えているように見えます。

徐々にTV離れが進んでいる日本でも、TV番組を「視る」から「聴く」視点に変えることで、動画配信プラットフォーマーに頼ることなく、新たな商機を掴めるかもしれません。また、「Tunity」のビジネスモデルが、既存TV局の生き残る手段になる可能性も十分に考えられるので、参考になさってみるといいかもしれません。

via Globes

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