(出所:123RF)
新規ビジネスの立ち上げや業務プロセスの抜本改革を目指し、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。DXを成功させるには、新規システムの早急な開発や既存システムの柔軟な拡張・改修が必要不可欠。その基盤として主役になっているのが、システムを「所有」から「利用」へと変えるパブリッククラウドだ。
本記事ではパブリッククラウドとは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、クラウド導入・運用のコンサルティングを手掛けるアクアシステムズの川上明久氏と小林涼氏が解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品・サービスや事例などをまとめて紹介する。
初回公開:2021/10/11
★知る1. パブリッククラウドとは2. パブリッククラウドの分類3. パブリッククラウドを導入するメリットとデメリット4. パブリッククラウド(IaaS)の基本的な機能★選ぶ5. パブリッククラウド(IaaS)の料金相場★使う6. パブリッククラウド(IaaS)を活用する上でのポイント7. パブリッククラウドの代表的な事例8. 注目のパブリッククラウド、関連製品・サービス9. パブリッククラウドの新着記事
*「1. パブリッククラウドとは」「2. パブリッククラウドの分類」「3. パブリッククラウドを導入するメリットとデメリット」「4. パブリッククラウド(IaaS)の基本的な機能」「5. パブリッククラウド(IaaS)の料金相場」「6. パブリッククラウド(IaaS)を活用する上でのポイント」は川上明久氏と小林涼氏が執筆
パブリッククラウドは不特定多数のユーザーに対し、インターネットを介してサーバーやソフトウエア、アプリケーションを提供するサービスのことである。サービスの提供者は「クラウド事業者」や「クラウドプロバイダー」と呼ばれる。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、米マイクロソフト、米グーグルが代表格で、この3社は特に市場シェアの大きいため「メガクラウド」とも呼ばれる。
ハードウエアリソース(CPU、メモリー、ストレージなど)やソフトウエアはクラウドプロバイダーが所有し、利用者はインターネットを介してそれを利用する。そうした利用形態であるため、「ハードウエア、ソフトウエアの購入・管理が不要」「使いたいときに使いたいだけ利用する」「利用した分だけの料金を支払う(従量課金)」という特徴がある。
クラウドの別の形態として「プライベートクラウド」と呼ばれるものがある。プライベートクラウドは、ネットワーク上でハードウエアリソースやソフトウエアを利用する点はパブリッククラウドと同じだが、自社で専用のハードウエアを所有し、運用する必要がある点が異なる。自社専用となるためセキュリティや仕様を自由に管理できるのに対し、ハードウエアの導入や管理に負担がかかる。
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パブリッククラウドで提供されるサービスは、大きくIaaS/PaaS/SaaSの3つに分類される。違いはクラウドプロバイダーが責任を持って管理する範囲だ。
システムを構築する際に必要となるサーバーやストレージなどが提供される。サーバーにはOS(オペレーティングシステム)がセットアップ済みの状態で使えるようになっている。利用者は、サーバーにソフトウエアをインストールし、アプリケーションを作成してシステムを構築する。
ハードウエアやネットワーク、設置場所、電源はクラウドプロバイダーが責任を持って管理する。シンプルなシステムであれば、ITインフラ専門のエンジニア(インフラエンジニア)がいなくてもシステム開発ができる。インフラの管理はやりたくないが、OSやソフトウエア、アプリケーションを自社でカスタマイズしてシステムを開発したい場合に向く。
IaaSの代表格は仮想マシンを提供するサービス。主なものとしては、AWSの「Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)」、マイクロソフトの「Azure Virtual Machines」、グーグルの「Google Compute Engine」がある。
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IaaSの範囲に加えて、OS上で動くソフトウエア(主にミドルウエア)をクラウドプロバイダーが責任を持って管理しているサービスを「PaaS」と呼ぶ。PaaSで提供されるソフトウエアには、データベースや分析、コンテンツ管理など様々な種類がある。
利用者は、自社に必要なソフトウエアが組み込まれたPaaSをインターネット上で利用して、アプリケーションを開発する。OS、ソフトウエアがセットアップ済みの状態で提供されるため、アプリケーション開発に注力でき、開発工数、期間を削減できる。
なお、自社にとって必要なソフトウエアが組み込まれたPaaSが必ずあるとは限らない。ニーズに合うものがない場合は、IaaSを利用して独自にソフトウエアをインストールして利用する。
PaaSには様々な種類がある。リレーショナルデータベースをクラウドプロバイダーが提供する主なサービスとしては、AWSの「Amazon RDS(Amazon RDS)」、マイクロソフトの「Azure Database for SQL Server」、グーグルの「Google Cloud SQL」がある。
アプリケーションをインターネット上で利用する形態のサービスだ。一般にWebブラウザー画面からログインするだけですぐにサービスを利用できる。
ハードウエアからアプリケーションまでの全てをクラウドプロバイダーが責任を持って管理する。3種類のサービスの中では利用者の管理責任は最も少ないが、標準仕様を超えたアプリケーションの独自カスタマイズは基本的にできない。
アプリケーションごとに多種多様なサービス、クラウドプロバイダーが存在する。グループウエアのSaaSではマイクロソフトの「Microsoft 365」やグーグルの「Google Workspace」がよく知られている。チャットツールのSaaSには米スラック・テクノロジーズの「Slack」やマイクロソフトの「Microsoft Teams」、CRM/営業支援アプリケーションのSaaSには米セールスフォース・ドットコムの「Sales Cloud」などがある。
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パブリッククラウド(IaaS)の導入により、企業にもたらされるメリットとデメリットは以下の通りだ。
パブリッククラウドのメリットは(1)スピードの向上、(2)柔軟性の向上、(3)コスト削減、(4)運用の手間削減が挙げられる。
ハードウエアを調達することなくインターネット上ですぐに利用を始められるため、システム開発を高速化できる。システム化投資から効果が出るまでの期間が短くなり、投資対効果が大きくなる。
処理能力が足りなくなった場合にサーバーのスペックを上げるといった、システム構成の変更をすぐにできる。ハードウエアを自社で用意する場合は事前にスペックの見積もりが必要になるが、パブリッククラウドではとりあえず利用を始めて、足りなくなったらスペックを上げる、ということが柔軟にできる。
従量課金で利用するため、利用期間が短い場合はハードウエアを自社で用意する場合に比べてコストが安くなる。ハードウエアを調達、導入する手間がかからないので、エンジニアリングのコストを削減できる。同様に、ハードウエアの管理コストも発生しない。
パブリッククラウドではクラウドプロバイダーが機器(サーバー、ネットワーク、電源など)を管理するので、利用者は機器をメンテナンスするために休日出勤したり、機器のトラブル対応をしたりする必要がない。機器管理をするインフラエンジニアがいなくてもシステム運用でき、労働環境の改善にもつながる。
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パブリッククラウドのデメリットとしては(1)サービス停止のリスク、(2)セキュリティのリスクが挙げられる。
ハードウエアやネットワーク、電源などの障害によるサービス停止時、復旧対応は基本的にクラウドプロバイダー任せになる。多くの場合、ユーザーは「復旧が完了した」という連絡を待つことしかできない。ただし、クラウドプロバイダー側で複数の障害対策がなされているため、サービス停止は頻繁に発生するものではない。
インターネット上のサービスを利用するため、データ流出や改ざんなどのリスクがある。そのため、データの機密度に応じたセキュリティ対策が必要になる。設定不備による情報漏洩を起こさないようにする対策も欠かせない。
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パブリッククラウド(IaaS)の主要サービスとして、インターネット上に存在するサーバーを利用できる仮想サーバーサービスが挙げられる。代表的なクラウドプロバイダーのサービスとして、Amazon EC2(Amazon Elastic Compute Cloud)を例に基本的な機能を整理しよう。
Amazon EC2で実現できることとして、(1)簡単なサーバー作成、(2)柔軟なサーバースペックの変更、(3)監視など運用ツールの標準装備がある。
Webブラウザーを使ってアクセスする「コンソール」で簡単な操作をするだけで、サーバーを作成できる。画面上でOSの種類、スペック、許可する通信などの設定を入力して作成ボタンを押す――と操作すれば、数分後には利用できる状態になる。サーバーについての知識は必要最小限で済み、物理サーバーや仮想化環境の構築手順を知っている必要はない。一度作ったサーバーをコピーして複製したり、バックアップしたりも画面操作で簡単にできる。
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CPU、メモリー、ストレージ、ネットワーク性能などの処理能力を柔軟に変更できる。処理能力が足りなくなった場合に、後からサーバーのスペックを上げるといったシステム構成の変更をすぐに実装できる。また、簡単な画面操作で予備の仮想サーバーを構築して、システム障害に備えられる。
サーバー運用に必要なツールをパブリッククラウド側が一通り用意している。例えば、サーバーの状態に異常がないかを監視するには、「Amazon CloudWatch」という監視サービスを使えばいい。Amazon EC2の起動状態が正常か否か、CPU使用率はどのくらいかなどを監視できる。ソフトウエアのインストールや設定は不要で、コンソールの画面で簡単に設定できる。また、非常に安価に利用できる。導入コスト、運用コストともに大幅に削減できる。
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パブリッククラウドは利用した分だけ料金を支払う従量課金制である。また、サービスごとに単価や従量課金の計算方法が異なる。AWSのAmazon EC2の場合、サーバーの台数、サーバーのスペック(CPU、メモリー)、ストレージ容量、AWSからインターネットへのデータ転送量で料金が決まる。
システム構成や規模で料金が大きく変わるため、「パブリッククラウドの相場はこのくらい」と一概には言えない。そこで今回はイメージをつかみやすくするため、パブリッククラウドでの利用例が多いWebサイトを例に説明する。AWSが公開しているドキュメント「AWSソリューション構成例 - 動的Webサイト(https://aws.amazon.com/jp/cdp/midscale-webservice/)」を参考に、アクセス負荷が低いWebサイトとアクセスが多いWebサイトの構成を想定し、料金を試算した。
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比較的アクセスが少ないWebサイトの場合、料金相場は月額377ドル(約4万1470円/1ドル=110円として計算)となる。これは以下の構成を前提としている。
サーバーを2台用意し、負荷分散でアクセスの増加に対応できるWebサイトを想定した。この場合、料金相場は月額956ドル(約10万5160円)となる。これは下記の構成を前提としている。
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パブリッククラウド(IaaS)を活用には、以下の4点に留意するとよい。
パブリッククラウドごとに利用できるサービスや料金が異なる。自社のニーズをより多く満たし、コストの低いパブリッククラウドを選べるよう、比較検討したほうがよい。
パブリッククラウドは頻繁に情報がアップデートされる。自社のニーズによりフィットする機能が追加されることがあるため、日々の情報収集が重要になる。そのため、クラウドプロバイダーやメディアが発信する情報を常に収集しておきたい。
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ある程度複雑なシステムや大規模なシステムをパブリッククラウドで運用・構築するには、専門的な知識が必要になる。ただ、運用・構築などを支援するパートナー企業が多数存在する。こうした企業に業務委託すると、経験豊富なエンジニアに委託してシステムの品質を高めたり、自社でインフラエンジニアを雇用せずにシステムを利用したりできる。
パブリッククラウド(IaaS)では、サーバーやストレージはクラウドプロバイダーの管理責任となるが、OS上で管理するデータやアプリケーションは利用者の責任範囲となる。障害発生に備えて、利用者側で定期的にバックアップを取得する必要がある。
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パブリッククラウドを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目のパブリッククラウドや、関連製品・サービスを紹介する。
目次に戻る目次に戻る川上 明久アクアシステムズ 執行役員 技術部長クラウド、データベースのコンサルティングに多数の実績・経験を持つ。クラウド、データベース関連の著書や雑誌記事の執筆・連載、セミナー・講演を多数手がけ、急増するクラウド化への要望に対応できるエンジニアの育成や技術・スキル向上支援に力を注ぐ。小林 涼アクアシステムズアプリケーション開発の経験を経て、2020年にアクアシステムズ入社。Oracle Database RACなどの設計、構築を経験し、近年はOracle CloudのExaCSへのシステム移行案件に従事する。