2021年6月、フランス・パリで会談したマクロン仏首相(左)とオーストラリアのモリソン首相。「裏切り」の展開はこのとき想像されていなかった模様だ。
米政府は9月15日、アメリカ・イギリス・オーストラリアによる新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」創設を発表。同時にオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することを明らかにした。【全画像をみる】米英豪3カ国がフランスを「裏切った」本当の理由。対中包囲網に小型原子炉輸出という国益オーストラリアはフランスと締結したディーゼル潜水艦開発契約の破棄を通告。対するフランス政府は、駐米・駐豪大使を召還する強い報復に出た。バイデン米大統領が同盟国であるフランスを犠牲にしてまで、この決定に踏み切った理由は何か。対中包囲網の質と量の強化に加え、小型原子炉の輸出という、「一石二鳥」の狙いが透けて見える。
フランスを除外して「秘密交渉」
メディア各社の報道によると、オーカス創設計画の検討が始まったのは2021年3月。原潜保有を希望するオーストラリア海軍が、建造技術の供与についてイギリス海軍トップに打診した。ジョンソン英首相は6月、主要7カ国(G7)首脳会議にオーストラリアのモリソン首相を招待し、バイデン大統領をまじえた米英豪3カ国による秘密首脳会談で計画の詳細を詰めたという。3カ国はフランスを通じて情報が漏れるのを警戒し、マクロン仏大統領を除外した。オーストラリアが2016年にフランス政府系造船会社ナバル・グループと結んだディーゼル潜水艦12隻の開発契約(650億ドル=約7兆1500億円)破棄をフランスに通告したのは、オーカス創設発表のわずかに数時間前だった。フランスのルドリアン外相は「同盟国間であってはならないこと」と非難し、「乱暴で予測もつかない決定はトランプ(前米大統領)と同じ」とバイデン大統領を批判。駐米・駐豪大使の召還を発表した。バイデン大統領が約7.2兆円ものフランス国益を犠牲にして、米英豪3カ国の安全保障協力を優先した狙いは何だろう。バイデン大統領はその目的について「21世紀の脅威に対処する能力を最新に向上させる」と、まず中国に対抗する姿勢を鮮明にし、続いて「アメリカの欧州における同盟国をインド・太平洋での協力に転換する第一歩」とも述べ、イギリスと協力する意義をつけ加えた。具体的な協力内容としては、原子力潜水艦の建造技術をオーストラリアに提供して原潜8隻を建造するとともに、長距離巡航ミサイル「トマホーク」を供与するとしている。オーカス創設発表翌日の9月16日には、首都ワシントンで米豪外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、オーストラリアに駐留する米空軍の兵力規模を拡張することで合意。中国をにらんだ米豪協力を強化していくスタンスを明らかにした。イギリスを戦列に加え、さらにオーストラリアが西太平洋と南シナ海を舞台に原潜と軍用機で中国ににらみを利かせる「新たなステージ」ができ上がることになる。
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最終更新:BUSINESS INSIDER JAPAN